ティン・ホイッスル

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普及品のホイッスル
 金属(多分ステンレス)製のホイッスル、歌口の部分はプラスティック製。
 これらは日本の楽器屋さんの店頭に並んでいる事もあるが、1本あたり千円程度の、安価なものだ
 このところクラシックのコンサートには、すっかり御無沙汰してしまっているので、最近の事情は分からないが、以前、ジェームズ・ゴルウェイと云うイギリスのフルート奏者が、コンサートのアンコールで、何曲かやったあと、その最後の最後に、やおらポケットから小さい縦笛を取り出して、なにやら軽快な曲をアカペラで演奏する事がよく有った。 今でもやっているかも知れない。 ずっと後になって、これがアイルランドの民族楽器であるティンホイッスル、文字通りにはブリキの笛であると云う事を知った。
 ゴルウェイはたしかアイルランドの出身だったから、おそらくは若い頃から馴れ親しんでいたのだろうと思われる。

 いつの頃からか、アイリッシュ系の音楽が盛んに成ったお陰で、時々このティン・ホイッスルのオーダーが来る様に成った。 また、映画「タイタニック号」の中で使われていたので、耳にされた方も多いだろう。
 発音装置はリコーダーに良く似ているが、フィンガリングの方はかなり違う。
 篠笛や中国の笛、インドのバンスリなど、多くの民族系の笛と同じく、六孔で、6個の孔の、上下3個づつを、左右の人差し指、中指、薬指で押さえる。 つまり左右ともに小指も親指も使わない。
 全部押さえて「ド」に成り、下から順に開けていって、全部開けると「シ」になる(もちろん、いずれも移動ド)。 フィンガリングは非常に簡単なのだが、音階がフルートやリコーダー(C管)の場合とは一音ずれる事に成って、フルートやリコーダーに馴れた人は最初はとまどう。
 上の二本はプラスティック製で円筒管、下の二本は円錐管、つまり、吹き口から先に向かって細く成っている。
 円筒管の楽器はオクターブが狭い目で、2オクターブ目を吹く時は、ある程度圧力を掛けて吹かないと、ピッチが上がり切らない。 円錐管の楽器はオクターブに関してはリコーダーに近い感じで吹ける。
 意外だがどちらかと云えば、円筒管の方が主流らしい。
 リコーダーと比べて一番違っているのは、裏側の左手の親指で操作する「オクターブ・ホール」が無い事だ。
 従って、オクターブは単に息の強弱だけで コントロールする事に成る。 つまり、高い音は強く、低い音は弱い、と云う事になってしまうが、逆にそれが一つの味に成っている様だ。 実際には、下の音域がそれほど弱々しくなる、と云う事はない。
 実用的な音域は約2オクターブ、キーは基本的にはDの様でこれはソプラノ・リコーダーより一音高い。
 他に、現在手元には、下から、D、E♭、G♭、G、A♭、A、B♭、B、C、D♭、D、E♭、F、G等の楽器が有る。 基本的に、そのキーと4度上のキーが可能なので、これだけ有ればエニーキーOKと云っても良いだろう。 近いうちに全てのキーの管が揃うはずだ。
s.z.b.e 製のD-ホイッスルと袋 頭部管を外したところ
 ところで、今まで(2008年)までは手元にはお土産品程度の廉価版の楽器しか無く、キー的にもかなりの制約があったのだが、これを大幅にグレードアップする事が出来た。
 ネットで調べて、とあるメーカー、と云うよりミュージシャンが楽器も作っていると云う感じだが、s.z.b.e. と云うメーカーを見付けて、試しに標準となるDの楽器を注文してみたところ、かなり満足の出来る楽器が届いた。

 右上の写真を見れば分かるように、頭部管が別になっている、いわゆるチューナブルと云うタイプだ。 ちょっと厚めの布で作った袋が付いている写真左上。
 下の写真は歌口部分で、この写真ではよく分からないが、如何にも手作り、と云う削り跡が残っている。 右下は反対側だが、この感じだと本体の管の内側にブロックを挿入して、外側にも同じ材質のモノを被せてあるようだ。
頭部管(表) 頭部管(裏)
 このメーカーではカタログにある以外のキーの楽器も作ってくれるので、現在、その最初に届いたD管を含めて、半音きざみで6種類のキーと、ロー・ホイッスル(D)が揃っている。
s.z.b.e のホイッスル
 ↑はその s.z.b.e.製のホイッスルで、上から、D、D♭、C、B、B♭、Aとなる。  一本の楽器で、そのキーと4度上のキーには対応出来るので、これだけでとりあえずはほとんどエニーキーOKだ。
 ホイッスルの問い合わせが有る度に、キーに制約があって、ピッチ、音程もよくないし、など、やる前から言い訳に努めなければいけなかった状態からは、やっと解放された。
 音階の第7音はクロスフィンガリングで楽に半音下げる事だ出来るが、それ以外ではクロス・フィンガリングを使う事はあまり無いようだ。 特に下の方に行くと、ほとんど不可能である。  同じ楽器が、「ペニー・ホイッスル」と呼ばれる事も有る。 ペニーとはイギリスのお金の単位で、現代のレートで、はたして何円くらいに成るのか、そもそも現在そう云う単位が使われているのかどうかも定かでないが、要するにティンホイッスルと云うのと同様に、大した値段ではない、安価な笛と云うニュアンスの様だ。
 材料は、ブリキと云うよりは、銅、錫、ジュラルミン、などの金属製の他に、高級品では木製、普及品ではプラスティック製の楽器も有り、この場合は厳密な意味ではティン(ブリキ)ホイッスルとは云えない。
 日本で楽器屋さんの店頭に有るものは、千円ちょっとの廉価版しか無いようだが、数万円、あるいはそれ以上もする専門家用の楽器も有る。 もちろん、特注品で、もっと高価なモノもあるに違いないが、いずれにしても楽器としては比較的安いほうだと思われる。
Susato のホイッスル
 これは米国 Susato 社製のホイッスル各種、写真上からD、G♭、G、A♭、A、C、D。
 いずれもABS樹脂製で、普及品の部類に入ると思われるが、充分に使用に耐える。 これらのホイッスルは外見上はあまり分からないが、わずかながら円錐管に成っているので、オクターブ上が比較的楽に出せる。
 数千円から一万円前後で、大きさあるいはキーの有無によって価格は変わる。 低いほうでは、1箇所、もしくは2箇所にキーを付ける事が可能で、手の小さい人でも楽に吹けるようになる。
 手元にある楽器に限って云えば、このプラスティック製の楽器でも、ピッチ、音程、オクターブの幅などの点で、良好なものも有る。 だから材料に関係なく、単にホイッスルとも云われるようで、その筋、つまりアイリッシュ音楽をやる人たちの間では、「ウィッスル」と呼ばれているようだ。  この小さいD管よりも1オクターブ下の楽器が有って、ロー・ホイッスルと呼ばれる。  音域が低くなれば、当然ながら楽器が大きくなり、指孔も大きく孔の間隔も広くなるので、手の小さい人には押さえ辛なってくる。  そんな人のためにはメーカーによっては、左右の、あるいは右手の薬指のところのキーを付けた楽器もある。
 どの音域でも、円筒管のホイッスルは、我々の感覚からすると、オクターブが狭いように感じるのだが、これは、どうやら奏法の問題らしい。 つまり、高音部は息の圧力で、吹き上げるような感じになるのだそうだ。 こう云う奏法によって、独特の味が出ると云う事だ、と云う事もあるのかも知れない。 だが、資料を色々聞いてみると、結構楽そうに吹いているのが多いから、このあたりはメーカーによって、かなり差があるようだ。
ホイッスル勢揃い
現在手元にあるホイッスルの勢揃い。
 一番上の右側の白いボディに黒の歌口が付いたのは、その下にある黒い楽器と同じD管のローホイッスルだが、内径はかなり広く、完全な円筒管で、オクターブはかなり狭い。
 下の方にあるブルーの歌口が付いているのは、千円前後の楽器で、ピッチ、音程に問題が有り、スタジオで使用するのはかなり厳しい。 それでも以前、この楽器で著名な歌い手さんの曲を何度もやっている。
 前述のタイタニックのテーマはキーがEなのだが、音域から考えて、使われている楽器は、おそらくはA管ではないか、と思われる。 つまり小さなD管と、オクターブ低いローホイッスルのほぼ中間に位置する楽器だ。

★ 詳しい音域、記譜法、性能、等は 「 楽器別性能、音域 」 の方を参照。
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