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 一番最初にリコーダーと云うものの存在を知ったのは、まだ二十歳前の頃だったと思う、 ラジオの放送で吉田雅夫さんがヘンデルのg-mollのソナタを演奏されたのを聞いて、それまで聞いた事が無かった、その音色に痛く感激した。 実際にこの目で見て手に触ったのは、三鷹に住んでおられた、さる高名なフルート愛好家のお宅をお訪ねた時に、見せて頂いたのが最初だった。

 私の場合、ピッコロやアルトフルートなどのフルート系の楽器以外で、まず最初に持ち換え楽器として手を染めたのはリコーダーだったと思う。

 小学校の音楽の授業に、リコーダーが取り入れられた時期と、重なっていたのかも知れないが、子供らしさ等を表現するのに、 時々リコーダーの持ち換えを要求する作曲家が居た様だ。

一番下からアルト、ソプラノ、ソプラニーノの各リコーダー。一番上はクライネ・ソプラニーノと称する、Kueng(実際はUウムラウト)社製の極小のリコーダー。 アルトとソプラニーノはヤマハ製、ソプラノはドルメッチュ(英)製で、この中では一番上等である。
リコーダー4種類

 当時は、スタジオミュージシャンとしては先輩に当る、某フルート奏者が、一応リコーダーらしきものを持っていて、仕事に使っていたが、ソプラノリコーダー(小学生の低学年が使う)一本だけで、キーはCに限る、臨時記号は一切駄目、音域は約1オクターブのみと云う、まことに情けない状況であった。

 いくらなんでも、これではいかん、と考えて、まず楽器はソプラノの他にアルト(ソプラノの5度下)を購入した。最初はドルメッチュ製のプラスティックの楽器だった。
リコーダーの音域
 他の民族楽器的な笛と同様、基本的にはソプラノ、テナーはCからC、ソプラニーノ、アルト、バスはFからFの、約2オクターブだが、リコーダーの場合はもう少し広く、 テレマン(バッハやヘンデルと同時代の作曲家)のソナタには上の「C」の音まで出てくる。
 この場合はアルトリコーダーだから、ソプラノで云えば「G]に相当する、つまり2オクターブと5度と云う事だ。かなり甲高くなるが、一応ここまでは出すことが出来る。 でも、スタジオでの使用と言う事で考えれば、1オクターブと6度くらいが無難なところかも知れない。
 リコーダーは、全ての半音階の音を出すことが出来る。しかし、音によって、音色、強さなど、かなりムラが有る事は否めない。
 本来笛と云うものは、音夫々によって、条件が違ってくるので、均等な音を望むのどだい無理な話で、その不均等さが特徴、と思って欲しいところだ。
 ちなみに、リコーダーは民族楽器ではない(民族楽器のように吹くことは出来るが)。バロック時代までは、バイオリンやチェンバロ、フルート等と同等の楽器として重要な地位を占めていた。現在日本の小中学生が使っているプラスティック製の楽器でも、ヘンデルやテレマンの曲がちゃんと吹けるのだ。
 まあ、これでも使えなくはないのだが、やはりもう少しレベル・アップが必要だと思って、以前にハンミッヒのフルートを購入した神栄生糸で、リコーダーも扱っていることを知り、有楽町の近くだったと思うが、東京支社を訪ねる。

 ここで、アレキサンダー・ハインリッヒ(Alexander Heinrich)と云う、東独製リコーダーの、アルト、ソプラノ、ソプラニーノを求めた。さすがに、木管の、一応本格的な楽器なので、それまでのプラスティック製とは、一段と違った音色だった。でも、今から思えば、随分バランスの悪い楽器だったが、これで、約1年間はひたすら練習に努めた(これが昂じて、その後、ある高名な教授の元に、数年間通う事にも成る)。

 楽器の方はその後、ドルメッチュのソプラノ、ハンス・コルスマのアルト、ベーレンライターのテナー、メックのバス、と云う風に成った。 テナーはソプラノのオクターブ下、バスはアルトのオクターブ下である。

リコーダー、テナーとソプラノ
 上の写真、上がテナー・リコーダー、下は大きさを比較する為に置いたソプラノである。 テナーも本来はキーは無いのだが、サイズが大きく成るので、特に下の方は間隔が広く成り、かなり手の大きい人でないと塞ぎきれない事もある。 テナーリコーダー足部管  ベーレンライター製のこの楽器は、初心者もしくは学校の生徒が吹くように作られたのだと思われ、一番下の孔の部分がキーに成っている(写真右)。その為にこの構造だと最低のC#の音は出す事が出来ない。私の場合、手が小さいのでこのスタイルが丁度良い。 楽器によってはバスリコーダーのように更にキーを加えてC#も出せるものも有る。

ワシントン条約
 ドルメッチュ製ソプラノの歌口部分、白い部分は、現在ではワシントン条約とやらで輸入規制に引っかかるであろう、象牙製である。 以前は、ブロック(後述)部分を除く全体が象牙製の楽器も有った。真中の少し色の薄い部分はブロックと云われ、抜き出す事も出来る。 ドイツ語でブロック・フレーテと云われるのは、これに由来する。
ソプラノリコーダー頭部管


 仕事に使う様になってからも、スタジオ業界では、それまで玩具の様に考えられていたリコーダーが、ちゃんとした楽器である事を認識してもらうのに、随分時間が掛かった様に思う。
 その内には他のフルート奏者達も、必要に駆られてと云う事も有り、徐々にリコーダーを手掛ける様に成り、今ではスタジオでは当たり前の様に成った。

 後にはバスリコーダー(アルトのオクターブ下)も手に入れて、全員フルート奏者の持ち換えによる、リコーダーのカルテットも、組める様に成った。 リコーダーの音域は基本的には2オクターブで、その間は半音階的に、全ての音を出す事が出来る。

 このプラスティック製のヤマハのソプラニーノは、買った時の値段は忘れてしまったが、恐らく1000円もしなかったのではないかと思う。
 その割には随分稼がせてもらった。この手の楽器は多分どこかの出来の良い楽器のコピーである可能性が高いが、その元の楽器が良かったのだろう、大変バランスが良い。
 難を云えば、一番下の、普通ダブルホールになっている所が、シングルなので、下のF#(実音)が出せない事だ。 現在、日本の各社から出ているソプラニーノは、ちゃんと一番下もダブルホールに成っている。
 ちなみに、随分前だが、これと同様のプラスティックのソプラニーノで、ビバルディのコンチェルトを吹いた事がある。
ヤマハ・ソプラニーノ

 1本の楽器で、全てのキーを吹けると云う事だが、やはりシャープ、フラットが増えるに従って、フィンガリングは難しくなるので、制約も多くなる、 勿論、これは個人的な技量に大いに左右されるところが大きい。
 基本的な音域は、ソプラノ、テナーがCからCまで、アルト、バス、ソプラニーノはFからFまでの2オクターブである。
 アルト、ソプラニーノ、バスは、楽器の構造上は明らかにF管の移調楽器なのだが、記譜はすべてinCで書く事に成っている。
 つまりリコーダー奏者はソプラノ、テナーなどの構造上C管のフィンガリングと、ソプラニーノ、アルト、バスなどのF管の楽器を吹く場合の、二通りの指使いを使い分ける事になる。
 バロック時代は、このアルト・リコーダーが一番一般的だった。

バスリコーダー  これはなんと1968年の写真で、おそらくこのバスリコーダーを購入した直後に撮ったものだと思われる。

 西独(当時)Moeck社製の楽器で、普及品、と云うか、恐らく学校で生徒が使う様なクラスの楽器ではないかと思われる、ちょっとクセがあるのだが、今でも時々使っている。

 左手の薬指、右手の人差し指、小指の部分は、直接押さえるのではなくて、キーに成っているので、指は比較的楽である。 むしろ、右手に関して云えば、テナーやアルトの方が、厳しいかもしれない。 バスリコーダーの場合は、この写真の様に、パイプを使って吹くのと、直接吹くタイプが有る。
★ 詳しい音域、記譜法、性能、等は 楽器別性能、音域 」 の方を参照。
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