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 QUENA、若しくは、KENAと書く。 元々がケチュア語(多分)だかの、現地南米のインディオの言葉をスペイン語で綴ったのであるから、云ってみれば当て字である。 日本語では「ケーナ」と云っているが、実際は「ケナ」に近いのではないかと思っている。  

G管のケーナ(自作)、赤い塗料はカシュウ
 何十年も前だがNHKの朝の連続テレビ小説「雲のじゅうたん」と云う番組のテーマ音楽で、この楽器を使った。 あと、記憶に残っているのでは、チャゲ&飛鳥のデビュー曲「万里の河」や、アニメ・もののけ姫で使っているのもこのG管の笛だ。

 1970年頃だったろうか、「フォルクローレ」なるものがブームに成った事が有った。
フォルクローレとは、本来は一般的には「民族学」、とか「民族音楽」を意味するスペイン語で、本来は特定の地域や国を指すものではないのだが、 この場合は、中南米の民族音楽を指す。 これに使われる楽器は、ギター、チャランゴ、ボンボ、アルパ、等がメインになるのだが、 なんと云っても代表的な楽器はケーナだろう。

歌口部分、巻いてあるのはテグス

 これは葦で出来た笛で、発音の仕方は、日本の尺八と同じである。
 スペイン語ではカーニャ(葦)と云っているのだが、材質的には日本の女竹、篠竹に近い。
 表側に5個若しくは6個の、裏側に1個の穴が空いていて、管の一方にV字型の切り込みが入っている。
 この切り込みに息を当てて、音を出す訳だ。

Vannini製のケーナ
 これは本場アルゼンチン製の楽器だ。 上から、ラ、ミ、レの調子のケーナ。夫々の短調と思えば良いので、C、G、Fのキーに相当する。 向かって一番左の穴は、普段は使われない。したがって、左手の親指、人差し指、中指。 右手の人差し指、中指、薬指で穴を操作する。左手の薬指は、楽器の保持に使う。 最低音が移動ドのラ、若しくはレに相当するが、どちらかと云えば尺八に近いと云えるかもしれない。 一番下側の穴は普通は使わないが、これを塞ぐと、もう全音低い音が出る。

歌口部分 糸の留め方
 歌口部分。良く見ると切り込みのところに黒いものが見えるが、これは焦げ目であって、どうも加工する際に、焼け火箸の様なモノを使用したものと思われる。指穴を開ける際にも、焼け火箸を使用したらしい形跡がある。
 ちょっと見難いが、右側の写真で、亀裂防止の為に巻いてあるテグスの留め方が、日本の竜笛等を作る際に使われているやりかたと、全く同じなのが、興味深い。

 アメリカのインディオ、インディアンは、赤ん坊の時にはお尻に蒙古斑が有るなど、我々と民族的に近い様で、ペンタトニックの音階等、音楽的にもかなり近い物を感じさせる。

 従って、そのケーナの音色も、日本人にはとても親しみやすいものが有る様で、ケーナで日本の民謡や童謡等を吹いても、全く違和感が感じられない。いわゆるコブシの入り方等も、結構似ていたりもするのだ。

 これをスタジオ仕事に取り入れない手は無い、と考えて、中南米の楽器等を扱う専門店で、楽器を求めてきた。 たしか「中南米音楽社」と云ったと思うが、それが右の Vannini 製の三本だった。

 発音自体は、フルートのトレーニングを積んできた者にとっては、さほど難しいモノではなく、運指表を頼りに練習している内に、音色も結構それらしく成り、例の「コンドル」くらいは吹ける様に成った。

 ただ、一つ問題が有って、それは楽器のピッチである。

 こう云う楽器は、元々がピアノやビブラフォンの様な、ピッチが固定されている楽器と一緒にやる様には作られていないので、無理もない話なのである。 で、これはもう、楽器を自作するより他は無い、と云う結論に到達した。

 もう随分前になるが(1980年頃?)、ラテンパーカッションの瀬上さんの故郷、和歌山県東牟婁郡古座川町に、竹の採集を兼ねて、お邪魔した事があった。古座川の流域の竹は我々の笛作りに大変適した材料に成った。 写真は、切った竹を洗っているところだが、左側は同業者の小出さん、後方船の上で鉢巻きをしているのが、故瀬上養之助さんである。 この時に採集した竹で作った笛は、今なおしっかり活躍しているし、ストックもまだかなり残っている。

 とは云っても、身近に材料が全く見当たらない。
しかたなく、最初は手近に有る竹の材料、帚やはたきの柄等を切ってみたりして、色々作ってみたが、試行錯誤の繰り返しなので、当然ながらすぐ材料が無くなってしまう。

 結局は、山などに行って、竹を切ってくるより仕方ない、と云う事になる。 以来、演奏旅行などに行くと、必ずその土地で竹を探す様に成った。

 満足な楽器が出来上がるより先に、仕事の方が来てしまった。 さる高名なアレンジャーの仕事で、「南米のケーナと云う笛が使いたい、 もし無ければリコーダーかなどでも良い」と云う様な話だった。
 恐る恐る、今まで作った楽器を何本か持って、現場に行って聞いてもらった。
 ちょうど音域が合うのが有り、やってみたところ、事のほか気に入ってくれて、即採用に成ってしまった。

その時の楽器
 ところで、これがその頃作っていた楽器で、その森山さんの録音で使ったのは、写真の上から二番目のG管だ。 一番下がC管、つまりソプラノリコーダーの音域だから、このG管はソプラニーノの一音上に当たり、普通は有り得ないような、小さい楽器だったわけだ。 やたらと糸を巻いているのは、当時、良い材料が無くて、よく割れていたからだと思う。
 確か森山良子さんの曲だったと思う。
 一応ダビングでハーモニーを付けたりすると、結構それらしいサウンドに成った様だった。
 その時使った楽器と云えば、ソプラニーノのリコーダーより一音高いGの楽器で、今から思えば随分妙ちきりんな代物だった。

 それでも、ともかくも、それが、我が国のスタジオ史上に、初めてケーナが登場した、歴史的な録音と成ったのである(若干オーバーか)。

 以来、作曲家、アレンジャー達の過酷な要求に応える為に、様々なサイズ、つまり色んなキーの楽器を作る事になる。

様々なサイズのケーナ
(全て自作)
 特に演歌系の歌い手さんの音域と云うのは、かなり微妙な様で、シャープやフラットが6個も7個も付くキーが、日常茶飯事的に出てくる。
 それに、突然半音上げてくれとか下げてくれ、と云う様な要求も、珍しくないので、この手の民族楽器は、色んな種類を揃えておかないと、対応しきれないのである。

 ところで、我々のケーナは本場のそれとは決定的に違う部分があって、それはフィンガリングである。
音域、性能
ケーナの音域はリコーダーとほぼ同じく、約2オクターブである。 フルートや尺八と同様に、口で直接音を作る関係で、リコーダーやオカリナよりはずっと強弱のニュアンスを付ける事が出来る。 臨時記号には一応対応しているが、どちらかと云えば、ダイアトニック、ペンタトニックの方が得意なのは云うまでもない。 指で直接孔を塞ぐので、ポルタメントは比較的自由に掛けられる。
 Vanniniのコラムの説明の通り、本場のケーナはどちらかと言うとマイナー仕様に、つまり、最低音が移動ドで云う「ラ」に成っている。
 この通りにすべきかどうかは、随分迷った結果、持ち替えや臨時記号の対応の事も考えて、結局はリコーダーに近いパターンにすることにした。
 これにより、我々の楽器は音階の「ド」から始まる、約2オクターブの音域を持つ様に成った。

 ちなみに、ケーナを作り始めて、まだ間もない頃、朝○新聞の取材を受け、1979年7月22日の朝刊で紹介された事があった。 記事のコピーはこちら

★ 詳しい音域、記譜法、性能、等は 楽器別性能、音域 」 の方を参照。
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