スタジオミュージシャンの条件
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 スタジオミュージシャンに成りたい、或いはスタジオミュージシャンに成るにはどうすれば良いのか? と云う様な質問を時々受ける事がある。

 以前、ある方からそう云う質問のメールを頂いて、レスを書いたのだが、以下は、そう云う疑問を持つ方に、少しでもお役に立てれば、と思って書き直してみたものだ。



 スタジオミュージシャンを募集する、オーディションを行う、などと云う話しは、聞いたことが無い。 確かに、スタジオミュージシャンに成る為のの入り口、窓口と云う様なものは無い。

 では、どうやってスタジオミュージシャンに成るのか、と云うと、それは人それぞれで、様々なケースが有る。 で、誰でも成れるか、と云うとそう云うものでもない。  資格、と云う様なものは無い、学歴、職歴、性別、国籍など、一切関係無いのだが、条件とか適性、と云うのは、有るかも知れない。 思いつくままに上げてみると、

★ 水準以上の演奏能力を持っている事
 これは当たり前だろう。 それ程ずば抜けた能力でなくても、プロとして普通の実力、と云うところだろうか。

★ 初見が利いて、楽譜の表と裏が読める事
 1、2回やったら、すぐテスト録音、と云う事が多いから、普通にスタジオミュージシャンとしてやっていくためには、初見が利く事は絶対に必要だ。 スタジオで使う譜面は、出版された楽譜の様に、完成されたものではない。 書き忘れや、スコアミス、写譜ミスも多いので、譜面づらを読むだけでなく、その譜面を通してどう云う事が要求されているのか、と云う事を個々のプレーヤーが感じ取れなければいけないのだ。

★ 音感、リズム感に優れている事
 これも当たり前なのだが、オケをやっていく場合などより、ずっと必要だと思われる。 別に絶対音感が必要とかではないのだが、コード感覚、と云う様なモノは大変重要だ。 また、基本的な能力プラス、ミュージシャンとしての動物的な勘、みたいなものが、普通以上に必要だ。 これは、勉強して身に付く、と云うよりも、生まれ付きのものも有る様だ。

★ 何か一つ以上、得意な分野を持っている事
 これをやらせたら、あいつが一番、と云う様な特色とでも云えば良いだろうか。  特に優れた点が無くても、なにをやらせても有る程度出来る、と云うのも、特色の一つと云えるかも知れないが、なにか一つでも「売り」の部分が有ると確実に有利になる。

★ 応用力に優れている事
 これは、例えば与えられた譜面を即座に別のキーで演奏出来る、とか、普通に書かれた譜面を、別のスタイル、例えばジャズ、ロック、ボサノバなどで演奏出来る、とかそう云う事だ。

★ 誰とでも親しく成れる性格である事
 これは絶対的な条件ではないかも知れないが、スタジオの仕事は、その時ごとに、いろんな人が集められて一緒に演奏しなければいけない訳だから、初対面の人とでも、円滑なコミュニケーションがとれる事が必要だ。 人見知りの激しい人は、不向きと云えるだろう。

★ 物事の飲み込みが早い事
 スタジオの仕事では、楽譜の変更などが非常に多く、すべて口頭で伝えられる。アレンジャーや作曲家が必ずしも言語明晰で理路整然と話してくれるとは限らないので、相手の云わんとしている事を素早く理解出来る事が必要だ。  また、譜面も決して完璧なものではなく、手書きで読みにくい場合も多いので、それを見て、作曲家やアレンジャ−の意図を汲み取れる事が必要だ。  もちろん、理解しただけなく、ナニを云われても、即座に対応出来なければいけないのは当然だ。

★ 集中力が有る事
 これもどんな仕事をするにも必要な事だが、時間と云うものにかなり縛られる、スタジオの仕事では、これが非常に重要だ。 不用意なNGを出すと、全体の士気にも影響するので、決めるところを一発で決められる、と云う集中力が必要になるのだ。

★ 専門以外にも、複数の楽器が演奏出来る事
 これも絶対的な条件ではないが、フルート吹きの場合でも、アルトフルートやピッコロは当然として、それ以外にも色々出来た方が重宝される。 フルートとピッコロしか出来ない、と云うのだと、安心して仕事が頼めないと思う。 わたしの場合は、リコーダー、オカリナ、ケーナ、篠笛、パンパイプ、などが、それに当たる。

★ ジャズやポップスの音楽理論の知識があること。
 これは、コードネームを理解する事や、アレンジの知識などだろうか。  プレイヤーにアレンジの知識が必要なのか、と云う疑問は当然有ると思うが、アレンジャー、作曲家によっては、かなり複雑なハーモニーを使うケースも有る。 一見不協和音に聞こえる個所が、楽譜の間違いなのか意図的なものなのかを、本能的に見分ける(聞き分ける)事も必要なのだ。 また、自分が今演奏しているパートが、全体の中でどんな位置を占めているのか、と云う事も、いちいち考えたりする事なしに、瞬時に感じ取れる必要もある。

 普通、音大を出て、すぐにスタジオミュージシャンに成る、と云う事は無い(音大を出る必要がある、と云う意味ではない)。 必ず、何かの分野で、有る程度の実績を上げてから、スタジオの業界に入ってくる、と云う事が多いと思う。
 何かの分野、と云うのは、クラシックのオケであったり、ジャズバンドであったり、歌い手さんのツアーバンドであったり、様々だが、そう云う仕事で、10年、20年とキャリア−を積んで、少し名前を知られる様に成って、初めてスタジオに入って来る、と云うケースが多いと思う。
 名が知られる、と云うのは、有名人に成る、と云う事ではなくて、その業界で、実力がある程度認められる、と云う事だ。
 最初は、誰かが都合が悪くなった時などに、代わりに頼まれて、つまりトラで行く、と云うのが多いが、そう云うのが重なって、力が認められれば、徐々に自分宛ての直接の仕事が来る様になる、と云う感じだろうか。

 現在スタジオを取り巻く状況は、お世辞にも良いとは云えない。  特にクラシック系の木管楽器で、新人が入って来る余地は皆無と云っても良い状況だと思われる。 スタジオ以外でも、また、フルートに限らず、どの楽器でも、演奏だけでメシを食っていくのは、大変難しい状況だと思う。
 この状態が将来上向きになる、と云う見込みはほとんど無いので、よほどの事でもない限り、生活の手段として考えるならば、スタジオミュージシャンに成るよりは、なにか別の分野を考えた方が懸命なのでは、と思う。

 悲観的な情報ばかりで申し訳無いが、これが現状だと思うので、その様に御理解頂きたい。

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