スタジオ用語辞典

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  何処の社会にも、その中でしか通用しない言葉が有るものだ。
 音楽界やスタジオ業界にも、当然それは有って、外部の人には分かり難くかったり、全く分からないものも多いだろう。
 「仕事場探検」やこのサイトのコンテンツにも、どうしてもその手の業界用語っぽい言葉が出てくるので、なるべく分かり易いようにと考えて、用語辞典なるものを作ってみた。
 お笑い芸人をはじめ芸能界でもよく聞かれるように成った「シーメ」とか「バーソ」などの、スラング的な、いわゆる楽隊用語の類は原則としてここには入れていない。  最近のミュージシャンはこの手の言葉をほとんど使わなく成ってしまった。
 いわゆるアシスタントディレクターの事だ。 テレビ局などでは、ディレクターはコントロールルームに座っていて、そこからフロアにいる演奏者や演技者に、色々な指示を出す。 それらの指示を、フロア側で受け取って、演奏者、演技者に伝えたり、プレーヤーとのコミュニケーションを助けたりするのが、ADの役目だ。
 ADというのは、雑用係のような面もあって、多分かなり大変な仕事なのではないかと思っている。

 リズム隊を録ったり打ち込みを入れる時に、後でダビングするミュージシャンの為に、冒頭にAの音を入れる事に成っているが、そのAの音の事をA−toneと云う。
 A−Toneは「アートーン」と読む。トーンは英語だから「A」は当然エイと成るべきだが、この辺りの英独混合はスタジオ業界独特のいい加減なところで、習慣的にAは「アー」、Dは「デー」と云う事に成っている。 それ以外は普通の日本的英語読みだ。
 ダビングを始める前に、「では、アートーン出しますのでチューニングよろしく〜」とか云って、そのあらかじめ録っておいたA−toneを流すわけだ。

 もちろん、Background Music の事だ。 喫茶店、レストラン、デパート、スーパー、駅、商店街、病院、等々、BGMの流れていないところを見つけるのは難しいだろう。
 普通BGMに使われる音楽は、特に集中して聞くための音楽ではないから、いわゆる癒し系と云われるようなソフトなサウンドのインストものが多い(パチンコ屋は別)。
 しかし、そうでもない場合も有る。 商店街や遊園地などで流れているのは、その場の雰囲気を盛り上げたり、購買意欲をそそったりする目的もあるのだろう。
 パチンコ屋で掛かっている騒々しい音楽もBGMだ。 こちらの方はうるさい騒音をBGMで和らげようと云うのと、景気付けのような面もあるのかも知れない。
 昔だが、某スーパーの店内用のBGMと云う仕事をしていた事があったが、ギャラは安いし、粗製濫造と云う感じで、どうも頂けない仕事であった。
 最近の各種BGMは、有線放送を使っているケースが多いようで、多分市販のCDなどを流しているのだろう。

 BKとはJOBKと云うNHKの大阪中央放送局のコールサインの略で、NHKの関係者で「このドラマはBKの製作で・・・」などと云えば大阪で製作した事を指す。
 放送局といえども無線局だから、コールサインを持っていて、何分間かに1回はコールサインをアナウンスしなければいけないはずだ。
 テレビの場合は、放送終了時くらいにしかコールサインにお目に掛かる事は無いようだし、ラジオも最近はあまりコールサインをアナウンスする事が無いように思える。 もしかすると規則が変わっているのかも知れないが、そのあたりは定かでない。
 ちなみに、同じNHKの東京はJOAK、名古屋はJOCKで、多分メジャーなところからアルファベット順に割り振っていったのだと思われる。

 民放のテレビやラジオで番組の合間に流れる、いわゆるコマーシャルの事だが、「CM」と云う云い方はどうも和製英語のようだ。
 スタジオ業界でCMと云えば、そのコマーシャルの音楽、もしくはその音楽録りを指す。
 多分、commercial message の略だろう。

 イコライザーの事だ。 ある特定の周波数帯を持ち上げたり、逆にレベルを落としたりして、音色を調整する装置で、単体でも有るが、アンプやスタジオの卓に内蔵されている事が多い。
 どちらかと云えば、単語の意味の逆の使い方をされるケースの方が多い様な気がする

 フロアディレクター、ADとほとんど同義語ではないかと思われる。 コントロールルームに対して、スタジオ側、つまりプレーヤーがいる方をフロアとも云うのだが、テレビスタジオで、アシスタントディレクターは、普通このフロア側にいるので、こう云う風に云うのだろう。

→ フェードイン

→ フェードアウト

 この「エムエー」と云うのも、なにの略なのか分かりにくいのだが「マルチ・オーディオ」の略らしい。
 マルチ・オーディオ、と云われても、なんの事やら分かりにくいだが、ドラマや映画で、撮影した映像に、効果音、音楽、セリフ、ナレーションなど、音声(オーディオ)関係を乗せる作業をエムエー、と云っている様だ。
 この場合のマルチ・オーディオと云うのは和製英語らしいので、エムエーと云うのも、日本でしか通用しないのだろう。

 Master of Ceremonies の略らしい。 司会者の事で、スタジオ用語と云う訳ではないのだが、テレビ番組の収録などでは、使われる事がある。
 コンサートなどで歌い手さんがしゃべる事もMCと云っている。
「三曲、曲つなぎで行ったら、その後MCが入ります」、とか。

 mix down の略か。
→ トラックダウン

 Musical Instrument Digital Interface の略らしい。
 日本のMIDI規格協議会と国際団体のMIDI Manufacturers Association によって決められた、電子楽器の演奏データを機器間でデジタル転送するための世界共通規格だそうだ。
 物理的な送受信回路・インタフェース、通信プロトコル、ファイルフォーマットなど複数の事柄からなる、との事。
 以上、ほとんど Wikipedia の受け売り。

 録音の本番で、うまく行くとOKが出るのだが、なんらかの理由で駄目が出るのを、NGが出る、などと云う。 多分 no good の略だろう。

 これは云うまでも無く、オーケーだ。
 両手で頭の上で大きな丸を作ったり、親指と人差し指で丸を作ったりするサインが有るが、後者は日本以外では使わない方がいいらしい。

→ オーバーラップ

 特にスタジオ用語、と云う訳ではない。 オリジナル・ビデオ・アニメの略だと思われる。 ビデオソフトと云うと、テレビ番組や映画をビデオ化したものが多いが、そうではなくて、元々からビデオの為に作られたオリジナルの作品を云う様だ。

 コンサート会場などに、聴衆の方に向けて設置している、スピーカーの事を「ピーエー」と云う。 それに対して、同じスピーカーでも、演奏者が自分達の音を聞く為に置いてあるスピーカーは、モニターと云っている。 PAは pablic address の略。

→ プロモーションビデオ

→ 委託版

 sound effect 音響効果、くらいだろうか。 昔から使われている「擬音」と云うのに近い事もあるが、擬音がなにか別の道具で波の音や風の音を出すのに対して、SEの場合はそれ以外に、実際の音を録音したものや、現実音以外のものも、含まれる。
 コンピュータ関係でSEと云えば、システムエンジニアだ。

→ トラックダウン

 ビデオテープレコーダー、もしくはそのテープの事だ。
 これが発明されて普及する以前は、テレビの放送は、ほとんどが生でやっていたわけだから、とくにドラマなどの場合は大変だったはずだ。 ドラマの劇伴なども役者さんが演技しているそばで同時にやっている事も多かったと思われる。
 VTRの登場で、劇的に便利に成ったと思われるが、初期のVTRは恐ろしく高価で、編集も不可能だったり、編集にもえらく費用が掛かったと云うような話を聞いた事がある。
 だからNGが出たりすると、ずいぶんと高いものについたらしい。

 テレビ番組で、CMに移行する直前に挿入される、5秒くらいの短い部分の事で、番組とは関係の無い静止画の事もあれば、CMに続く内容を予告するようなものもある。
 ただし、CMの無いNHKの番組でも、このアイキャッチは入っている事が有るようで、単なる段落としてか、あるいは、もしかすると番組を外国などに輸出した場合の事を考慮しているのかも知れない。
 もう終わってしまったが、いわゆる「火サス」の「じゃじゃじゃじゃっ、じゃじゃじゃじゃっ、じゃ〜じゃ〜」と云うのが、非常にアイキャッチらしいアイキャッチではなかったか、と思っている。

 特にスタジオ用語、と云うわけではない。 アカペラ、と云う言葉を始めて聞いた時は、てっきり「アカ・ペラ」だと思ったが、実は「ア・カペラ」で、a cappella なのだ。
 昔、マツダのカペラ、と云う車が有ったが、cappella はイタリー語で、礼拝堂とかチャペルの意味らしい。 昔、宗教音楽は無伴奏で歌われていたので、無伴奏の、主に合唱の事を「ア・カペラ」と云う様になった。 現在では、合唱でなくても、楽器の場合にでも、無伴奏の意味で使われている。

 特にスタジオ用語、と云うわけではない。 「アゴアシ」とは、「顎足」の事なのだが、顎は、この場合、食べ物、弁当代、の様な意味から、宿泊費を意味する様な事もある。 足は簡単で、これは足代、つまり交通費だ。 つまり、アゴアシで、演奏旅行などの場合の、ギャラ以外の必要経費、と云う様な意味で使われる事が多い。
 たった一日だけの仕事で、ちょっと遠くに行かなければいけない場合など、「ギャラよりもアゴアシの方が掛かりすぎてさぁ」、と云う風に云ったりする。

 acousticとは、音響学の、聴覚の、と云う様な意味らしいだが、この場合は、電気の力を借りない楽器、つまり普通の楽器、と云う風に思えばいいだろう、ナマ楽器、などとも言う、別項参照。 カタカナ表記としては、「アクースティック」の方が近いと思うのだが、普通は「アコースティック」と云われている。 現場では「アコピ」(アコースティックピアノ)、「アコギ」(アコースティックギター)などと云ったりするが、如何にも日本的な省略法だ。
 アコースティックなサウンド、と云うと、電気的なエコーではなくて、ホールなどの、自然な残響を含んだサウンドを指す。

 acoustic guitar ガットギター、フォークギターなど、アンプを使わないタイプのギター。
 生ギター、アコギなどと云う事もある。

 acoustic piano 早い話が、普通のピアノで、エレキピアノ、フェンダーピアノなどが登場して以来、区別する為にアコースティックピアノと云うようになったのだろう。

 acoustic bass 昔から有るコントラバスの事で、これもエレキベース、フェンダーベースに対して云う。
 同じアコースティックベースでも、クラシックで使うコントラバスとジャズなどで使うウッドベースは微妙に違うらしい。

 朝ドラ、と云われているのは、薄謝協会の、朝8時15分から放映されている「テレビ小説」と云う帯ドラマの事を指す。 いつの頃からか、 いわゆる溜め録りに成ってしまってからは、そう云う事もなくなってしまったのだが、スタジオミュージシャン、特に、当時(溜め録りに成る以前)協会によく出入りしているミュージシャンの間では、朝ドラをやっている、と云うのは、ある種のステイタス風に思われていたものだった。
 何故か、と云うと、当初の頃の朝ドラは、溜め録りではあったのだが、今の溜め録りの様に、BGM風のものを適当にまとめて録るのではなくて、一週間、つまり6日分を、本来なら毎日録音するところを、3、4時間掛けて、まとめて録る、と云う事に成っていた。 もちろん、今云うところのフィルムスコアリングで書いた劇伴だ。
 ギャラの方は、6回分とまでは行かなかったが、3、4時間の仕事にしては、かなり高額だったので、結構「美味しい」部類の仕事だったのだ。 だから、朝ドラの仕事と云うのは、有る程度以上の実績のあって、作曲家からも信頼されているミュージシャンでないと、もらえなかった。
 同じような帯ドラマで昼間、昼過ぎの時間帯に放映されるメロドラマもあるが、これは何故か「昼ドラ」ではなくて、「昼メロ」と呼ばれる。
→ 帯ドラマ
→ 昼メロ

 この場合のアシスタントとは、録音スタジオのエンジニアさんのアシスタントの事だ。
 最近の傾向として、チーフのエンジニアさんは、アレンジャーや制作会社の関係で、外部から入るケースが多いが(某薄謝協会は例外で、外部のエンジニアさんが入る事は無い)、このアシスタントに関しては、例外なく、そのスタジオに所属している人が担当している。
 そのスタジオの機材その他に精通している訳で、エンジニアさんとの橋渡しの役をする他に、録音の進行役を務めている、と云う面もある。 録音の業務がスムーズに行くかどうかには、そのスタジオのエンジニアさんの能力や人柄に依存している部分が、大変大きいと思われ、ある意味、そのスタジオの顔とも云えるのではと思っている。
 大きいスタジオでは、アシスタントが2人居る事が多いが、小さいところでは、アシスタント無しでエンジニアさんが兼任、と云うケースも有る。

 この場合の「頭」とは、ある曲の最初の部分、と云う意味だ。 沢山の曲が入っている中から、必要な曲を捜し出すのは、レコーダーのカウンターを使うのだが、この辺りの手際の良さは結構大切で、スタジオのアシスタントが下手糞だと、余計な時間が掛かってしまう。
 劇伴でもそうなのだが、特にCMの場合は、時間が厳密なので、映像に音楽を合わせてみる時などは、この頭出しがほんの少しの狂いも許されないので、大変だ。

 これはテレビ関係の用語だと思うが、本来は映像と音声は同時に撮るわけだが、なんらかの都合で、先に音声だけ録って、あとでそれに合わせて映像をとる、と云う事も有る。 音に合わせて(当てて)フリをする、と云う事で当てぶりと云っている。
 時には映像と音声を別の人が担当する、と云う事も有ったりする。
 ミュージシャンにもこの当て振りが有るようで、中には弦セクションなど、当て振り専門のグループも有るのだそうだ。 その場合はやはりビジュアル面が優先されるのだろうか。
→ クチパク

 「アフレコ」と紛らわしいが、アフレコは映像と同じ人が自分の演技に合わせて台詞などを入れるのを指すのに対し、アテレコは別人が音声を入れる事を云う。
 アニメの台詞も、これに当たるのだろう。
 俳優さんが楽器を演奏するシーンで、映像に合わせてダビングする、と云うような仕事がたまに有るが、これもアテレコだろう。
 本当は先に音楽を録っておいて、それに合わせて「当て振り」してもらったほうが、ずっと自然な映像に成る。

 普通、後入れ、と云う場合は、ダビングと同じ様に使われる事が多いのだが、厳密には意味多少違うだろう。
 ダビング、と云うのは、なにか先に出来ているものに、音を被せる、重ねる事で、その先に入っているものは、音とは限らず、映画のダビングの場合は、映像や台詞だ。
 後入れ、の場合は、本来は同時にやるべきものを、なんらかの理由で、別に、つまり後で入れる、と云う事だと思われる。
 その、後入れに成る場合は、いろんなケースが考えられるが、スタジオのキャパの問題で、全員が入り切れない、その時間にメンバーが揃わない、ミキサーさんの都合で、別々に取りたい、或いは、演奏する上で、楽器の持ち変えが間に合わない、フレーズが難しくて、後でゆっくりやりたい、等などだろうか。
 「後被せ」とも云う。

 来るはずのミュージシャンが、なんらかの理由でスタジオに来ない事を、穴が空く、と云う風に云う。 これは、スタジオ業界だけではなくて、芸能界一般でも使うようだ。
 インペク屋さんが一番恐れ、嫌がるのが、この「穴」だ。 穴が開いてしまう原因は、スタジオの仕事のオーダーは、電話でやる事が多いので、言い間違い、聞き間違い、などによる事が多いが、それ以外にも、ミュージシャンが受けた仕事を忘れてしまった、とか、日にちを勘違いした、などと云う事もある。
 スタジオの仕事で、正式の契約書などを交わす事はほとんど無くて、大抵の場合、電話でのやり取りだけだから、云った、云わない、聞いていない、と云う食い違いは結構ある。 後の証拠の為に、通話を録音をする、などと云うケースも、無い事はないのだが、「ほら、こう云ったじゃないか」などと、証拠を突きつける事は出来ても、かえって後々の人間関係に悪影響を及ぼす様な事にも成りかねないので、難しいところだ。
 最近、少しづつだがメールでのオーダーが増えてきているのは良い傾向ではないかと思われる。

 スタジオミュージシャンにはあまり縁のない言葉かも知れない。
 アフター・レコーディングの略らしいが、もちろん和製英語(?)と云うよりは日本語と云った方がいいか。
 撮影や録画の際に音声のほうは録らないで、後でスタジオなどで録音する事を云う。
 英語では、looping、ADR(Automated Dialogue Replacement、Additional Dialogue Recording)などと云うらしい。

 強いて漢字で書けば「在り物」だろうか。
 要するにオリジナル、新曲ではなくて、以前から存在している曲、と云う意味で使う。
 「今日の仕事はありものばっかりだから、早く終わるよ〜」などとよく云っている。

 編曲者。 元は、ピアノの曲をオーケストラ曲に、など、ある曲を、別の形で演奏する様に作り変える事を編曲、アレンジする、と云っていたが、スタジオでアレンジと云う場合は、作曲家が作った歌のメロディーを、オケの伴奏の付いた形に作り上げる作業を云う事が多い。 もちろん、本来の意味でも使われる。 ある歌がヒットするか、しないか、アレンジャーによる部分が大変大きいと思われるのだが、そのわりにはあまりスポットライトを浴びる事が少ないのは残念だ。 メロディーを作るのは、誰でも出来るが、アレンジは特別な教育、訓練を受けた人でないと出来ない。

 アンコと云うのは、饅頭やお餅に入っている餡から来ているのだが、演歌などの途中に、本篇とは別に、比較的よく知られた民謡や童謡などが挿入される事は結構あって、こう云うのを業界では「アンコ」と云っている、まあ、間に挟まる、と云う事なのだろう。 普通、この「アンコ」はワンコーラス目とツーコーラス目の間奏に入る事が多い。
 実はこの、「アンコ」入りの歌謡曲は、昔から結構有った様だ。 大抵は民謡だが、中には童謡や唱歌の場合もあり、大体は回想的な効果を狙っているケースが多い。  ちょっと古いが、「麦と兵隊」と云う軍歌としては珍しくマイナーの歌が有るが、ワンコーラスとツーコーラスの間に佐渡オケサがアンコで入って、結構泣かせるものがある。
 アンコに民謡が入っていると、少なくとも、その民謡の地方だけでも、ある程度の売り上げが期待出来る、と云うような、御当地ソングに近いものがあるのかも知れない。
 そう云うのとは別に、時々やっている仕事で、そのアンコに詩吟が入る、と云うのが有る。
 プライベート版(別項参照)なので、市場には出ないのだと思うが、オリジナルの演歌風の歌のアンコに、川中島、とか、スタンダードな詩吟の一節が入る。
 多分、そう云う詩吟のグループと云うか、一派があるのだと思うが、詩吟と云うだけに、どちらかと云うと年配の方が多い様だ。 喉を鍛えて居られるだけあって、皆さん中々の美声の持ち主で、歌もお上手だ。
 ただ、この手のアンコ入りの曲のアレンジは、ちょっとばかり面倒な面も有る様だ。
 つまり、詩吟、と云うのは、本来、あまりテンポとかリズムが、いわゆる洋楽の様にははっきりしていないので、それを採譜して、オケのバックを付ける、と云うのは、大変な作業の様だ。
 あと、本篇のキーと必ずしも一致しない場合も有るし、テンポも当然違って来るので、そのつなぎ方の調整も、工夫が必要で、アレンジャーさんのウデの見せ所となる。

 特にスタジオ用語、と云うわけではない。 大編成のオーケストラに対して、10人以下の比較的少人数の合奏の事を指す事が多い様だ。 でも、スタジオでは、小編成でもオケと云う事が多い。

 スタジオでは各楽器毎にマイクが立てられているが、それとは別に、指揮台の前あたりにひときわ高いスタンドが立っていて、天井近くにマイクがセットされている事がある。 特にどの楽器を狙っていると云う風には見えないが、それがアンビエンスマイクだ。
 スタジオ全体の、反響、残響などが混じり合った音を録るのが目的で、個別のマイクで録った音と適当にミックスして使う。 時にはこのアンビエンスマイクがメインで、補助的に個別のマイクを使う事も有るようだ。

 インターネット関係だと、「板」と云うと、掲示板を指すようだが、スタジオ関係で「板」と云うと、レコード板を指す。
 放送局などで「板を回す」と云えばレコードを掛ける事を意味していたものだ。
 なにか録音していて、「これって板になるの?」と云うと、レコードとして発売されるの?、と云う意味だった。
 CDも板には違いにのだが、世の中がCDに成ってからはあまり使われなくなったように思う。

 スタジオ用語ではない。
 コンサートや演劇などで、緞帳が上がるまえに、もしくは照明が入る前に、ステージにスタンバイする事を云う。
 クラシックのコンサートでは、普通、板付きではなくて、ステージが明るく成ってから、ぞろぞろと入って来る事が多い。

 レコード会社で製作するCD(昔だとレコード)は、原則としては自社で企画制作するのだが、それ以外に、外部からの注文で、プライベートレコードの様なものを作る事が結構有る。 地方で活躍しておられる歌い手さんとか、自治体の市歌などをはじめ、社歌、校歌、あるいは地方の市町村で盆踊りなどで使う様な「**音頭」の類とか、色々有る。 こう云うのを総称して、委託版と云っている。
 この手のCDは市場に出回る事はほとんどないが、アレンジャーからミュージシャン、エンジニアまで、れっきとしたプロの技術で作られる訳だから、品質的には市販のものと変わりない。
 ただ、通常のCDの様に、「どうしても売らなければいけない」と云う意識はあまり無いので、全体にのんびりした雰囲気でやっている。 ミュージシャンのギャラは、普通と同じ様に支払われる。
 プライベート版、とも云い、その略でP版などとも云う。

 第一スタジオの事で、当然ながら「ニスタ」、「サンスタ」と云う風に続く。 スタジオによっては、アルファベット順のところもあって、「エースタ」「ビースタ」等と云っている。 いずれもスタジオの大きさの順になっている事が多く、1スタ、Aスタが一番大きいスタジオ、と云う事になる。
 また、場所によっては、506スタ、101スタなんてのも有って、これは習慣的に「ゴーマルロクスタ」「イチマルイチスタ」と云う風に云う。 こう云う風に云う場合は、スタジオが沢山ある事が多い。 最初の数字は、そのスタジオの有るビルの階を表す事が多い。
 似た様なので、リハーサルルームなどは、「イチリハ」「ニリハ」などと云ったりして、それぞれ、第一リハーサルルーム、第二リハーサルルームの事だ。
 イチカメ、ニカメ、と云う場合は、テレビのカメラだ。

 例えば16小節を繰り返す場合、最後の1、2小節だけ、戻るときと先に行くときでかたちが違う事がよく有る。 本来ならば16小節丸まる書かなければいけないところを、その違っているところだけ別に書いて、共通した部分は共用する、と云う、昔から行われている書き方で、学校の音楽の時間でも習うはずだ。
 もちろん、最初に入るのが一番括弧で、二番括弧、三番括弧・・・と続く事もある。
 うたものの場合はこの括弧の中が、間奏になる事も多い。  ちなみに英語では、first ending(2nd ending, 3rd ending) と云うのだそうだ。

 特にスタジオ用語、と云う訳ではない。
 普通は、あるキーで書かれた楽譜を別のキーに書き直す事を移調と云う。 曲の中でキーが変わっていくのは「転調」で、紛らわしいが全く別ものだ。
 書き直さずに、移調しながら演奏するのを読み替えと云っている。

 特にスタジオ用語、と云うわけではない。
 イッショクと云って通用するのは渋谷の日本薄謝協会の中だけだ。
 なんと云って大きい施設なので、食堂だけでもいくつも有る。 我々スタジオミュージシャンがよく出入りするのは、本館の5階と1階にある食堂で、5階はゴショク、1階はイッショクと云っている。
 いずれもレストランと云うよりは社員食堂に近いが、出演者はもとより、協会に出入りしている人なら誰でも利用出来る。
 個人的には1階のほうが好きで、もう値上がりしているかも知れないが、220円のラーメンなど、よく食べたものだ。 普通の定食の類もあって、時間帯や品物にもよるが、大体は値段のわりにはまあまあかな、と云うところだ。
 1階にはテレビスタジオが有るので、時代劇の扮装をした俳優さん達が、カレーライスを食べていたりして、面白い。

 一発、つまり全てを一回で録る、と云う事で、同録(同時録音)の事を「一発録り」と云う事が有る。

 主にステージ関係で使われる事が多い。
 例えば、3時からゲネプロが有る場合などに、「2時半入りでお願いします」と云う風に云うのだが、「楽屋入り」の意味だろう。
 実際に練習が始まる前に、伝達事項や打ち合わせが有る事もあるので、1時間、もしくは30分くらい早めに成ることが多い。
→ 音だし

 特にスタジオ用語、と云うわけではない。
 芝居やコンサートの前に、ファンが楽屋口などで役者やミュージシャンがやってくるのを待つ事。 単に顔が見たい、あるいは励ましたいと云う事も有るだろうし、サインをねだったり写真を撮ったりと云う目的の事もあるだろう。
 スタジオ用語ではないが、スタジオの入り口でも人気ミュージシャン目当ての「入り待ち」「出待ち」のファンを見かける事もあるので、まんざら関係無いわけでもないだろう。

 instrumental 、歌が入らない楽器だけの演奏を指すのだが、歌の曲を、なにか楽器で演奏する事を云う事が多い。
 TBSラジオに「歌のない歌謡曲」と云うチョー長寿番組が有るが、名前の通り、よく知られた歌謡曲をインストで流している。

 インター(inter)だけでは前置詞、もしくは接頭辞で意味をなさない。
 interlude は、幕あい、もしくは幕あいに演奏される間奏曲の意味だが、スタジオでインターというのは、歌モノの「間奏」の意味で使われる事が多い。

 イントロ・クイズなどと云うテレビ番組が有ったが、前奏 introduction の事で、あちらでも intro と云う風に略す事はある様だ。 これはごく普通の用語なのだが、最近時々見かけるのに、「アウトロ」と云うのが有る。 多分イントロが前奏だから、後奏はアウトロで良いだろう、と云う様な比較的安易な発想から、誰かが云いだした言葉だと思われる。

 元はインスペクターから来ているのだが、スタジオでは、ミュージシャンの手配をする人、もしくはその作業を指している。 CDのブックレットには「コーディネータ」などと書いてあって、なんとなく格好良く聞こえるが、同じ事だ。 アレンジャーや作曲家の希望を聞いて、それに沿う様にメンバーを集める仕事は、クォリティの高いレコーディングを行うためには、かなり重要な位置を占める事になる。 大勢のメンバーのスケジュールを調整するのは、大変な作業に違いない。
→ コーディネータ

 スタジオでボーカルと云う場合は、アーチストと呼ばれるメインの歌い手さんを指す事が多い。 バックのコーラスはあくまでもコーラスで、ボーカルとは云わないようだ。
 モニターの歌が大きすぎて自分たちの楽器の音が聞きにくい場合など、「ボーカルの返しをちょっと下げて〜」などとよく云っている。

 薄メロと書くべきなのかも知れないだが、メロはもちろんメロディーの事だ。 これはなにかと云うと、カラオケのバックに、シンセやアコーディオンで、ガイド用に歌のメロディーが入っているが、あれをカラオケ業界(?)ではウスメロと称している。
 あくまでもガイドなので、薄く(弱めに)入っているところから、文字通り薄メロ、と云う訳だ。
 実は、カラオケだけではなくて、昔の流行歌などを聞くと、アコーディオンやクラリネットなどで、歌のメロディーが入っている事がよく有る。 昔は歌も同時に録っていたので、あれは、歌い手さんのためのガイドだったのだろう。
 このウスメロを演奏する場合は、普通とちょっと違って、比較的無表情に淡々とやる事に成っている。 歌につられてルバートする様な事もなく、行儀よく譜面通りにやらなければいけないので、耳に馴染んだありものの曲などをやる場合は、結構難しかったりする。
 カラオケに関してはこちらも参照。

 この場合の歌はボーカルの事で、歌入れとはボーカルの録音、つまりダビングの事だ。 ボーカルと云っても、この場合はバックコーラスとかではなくて、メインの歌い手さんを指すことになっている。

 歌の伴奏、の事だ。
 スタジオの仕事は、ごく大雑把に分けると、歌伴と劇伴、と云う事になる。
 歌伴と云う場合は、歌モノのレコーディング、テレビやラジオの歌番組、ステージの歌謡曲のバックや、歌い手さんのツアーバンドなども含まれる。

 コンピュータ上で作られた音楽、またはその入力作業を「打ち込み」と称している。 残念ながら、テレビやラジオで流れている音楽には、この打ち込みの割合がかなり高く成っている。 ポップス系の歌のバックは、この打ち込みだけのものが、かなり多い。
 コンピュータ音楽を入力するのは、ピアノが弾ける人だったら、MIDIのキーボードから楽器を弾くのと同じ様に入力できるが、楽器が全く出来ない人でも、極端な場合は、楽譜が全く読めない人でも、パソコンのテンキー等を使って入力する事が出来る。 一見面倒そうなこの方法も、慣れた人だと、ものすごいスピードで入力しているので、見ているとマサに打ち込んでいる、と云う感じがする。
 アニメの劇伴などは、この打ち込みと「生オケ」つまり普通のオーケストラをうまく組み合わせて使っている事が多い。

 アコースティックベースと云うのとほぼ同じで、エレキベースに対して云われる。
 エレキベースが出現する以前には無かった言葉で、どうやら和製英語らしい。

 リズムセクション、リズム隊以外の、ストリングス、木管、ブラス、コーラスなどを指して上もの(うわもの)と云うようだ。
 どちらがメインとか云う事ではないが、スタジオではリズム隊をベーシックと考える事が多いので、こんな云い方に成るのだと思う。
 セクションごとに分けて録る場合は、まず最初にリズムセクションを録って、その跡で上ものをダビングすることになる。
 「上もの」とは云っても「下もの」と云う事は無いようだ。

 「絵」と云うのは、元もとは映画の映像の事だったのだが、最近ではビデオの方が圧倒的に多い、と云うよりも、フィルムを映写出来るスタジオが無くなってしまった様だ。
 絵合わせ、と云うのは、この場合、音楽を映像に合わせる、つまり、シーン全体の長さや、途中の切っ掛けなどを、テンポなどを微調整しながら合わせる事を云う。
 時によっては、楽譜を一部カットしたり、逆に追加したりする事もある。
→ 絵合わせの名人

 昔のスタジオには、ほとんどと云っていいくらい、映写の設備があった。 歌モノの録音や、ラジオ番組は別にしても、映画、CM、テレビ、いずれも映像に合わせなければいけない訳で、映画はもちろん、CMもテレビドラマも、フィルムを使っていたから、どうしても映写の設備が必要だったのだ。 たいていは、副調の上くらいに映写室があって、その反対側にスクリーンが掛かっていた。
 劇伴などの場合は、シーンごとに別になったロールを掛けなければいけない事が多く、録音の進行状況は、その映写技師さんのウデによる部分が大きかったようだ。
 「なんだ、また映写待ちかよ〜」と云うような声が、よく聞かれたものだ。
 現在、映写の設備のあるスタジオは、ほとんど無くなってしまったが、AVACOの301などには、まだその名残が残っている。

 車の中で聞くために開発された、特殊なカセットテープで、主にいわゆるカーステレオに使われていた。
 普通、一般家庭で使われていたオープンリールのテープレコーダーでは1/4インチ幅のテープを使っていたが、その同じ幅のテープを8トラックに分けて使っていたためにエイトトラック、ハチトラなどと呼ばれていた。
 一般のテープと違っていたのは、これはエンドレステープに成っていた点だ。
 まだいわゆるコンパクトカセットが出てくる前で、オープンリールのテープだと掛けたり外したりの作業はとても車内では出来ないので、こう云うエンドレスが採用されたのだろう。
 カーオーディオ以外では、初期のカラオケ、バスの車内放送などにも使われていたらしい。
 構造上、市販されていたのは曲が入ったソフトと再生専用のハードのみだった。

 楽器や歌声を録音する場合は、普通、適切なエコー、つまり残響を付ける。 よく響くホールでの録音だと、自然の残響を生かす事が出来るのだが、スタジオは、響きがデッドな事が多いので、人工的にエコーを付ける事になる。
 最近では、ほとんどが電気的な処理によっている事が多いのだが、以前は、エコールームを呼ばれる、コンクリート張りなどの、部屋を使っていた。 風呂場で歌を歌うと、よく響いて気持ちが良いが、あれと同じで、このエコールームでスピーカーで流して、それを別のマイクで拾う、と云う、今から思えば、結構原始的な事をやっていた事になる。
 予算の都合などで、エコールームが無いスタジオでは、代わりにトイレを使っている所などもあって、本番中に誰かがそのトイレを使ってしまってNGに成った、などと云う笑い話も有ったらしい。

 大太鼓、小太鼓、シロフォン、シンバル、と云う様な、普通オーケストラで使われている様な打楽器を、スタジオではクラシック・パーカッション、ボンゴ、コンガ、マラカスなど、中南米系の打楽器をラテン・パーカッションと云う風に云っている。 それに対して、それ以外の、アフリカ、アジア、他の各国の民族系の打楽器を、エスニック・パーカッションと呼んでいる。 と云う事は、その種類は無限に在る、と云っても間違いではないだろう。
 日本の太鼓類も、これに入りそうな気がするが、スタジオでは「和楽器」と云って、別扱いにしている。

 絵録り、早い話が、録画の事で、音録りに対して絵録りと云うようだ。

 スタジオ用語、と云うわけではない。
 それも、NHK関係でしか通じないと思うが、「N児」とは「東京放送児童合唱団」の事だ。 と云っても、現在の正式名称は変わっているかも知れない。
 N児出身のミュージシャンも、結構、居られるのではないか、と思う。

 エム(M)は音楽の事だ。 普通、劇伴(別項参照)の場合、一曲づつにタイトルをつける事は少なくて、順番に番号を付けるだけの事が多い。
 録音する時には、後でどの音楽だったか分からなく成る恐れもあるので、指揮者、作曲家、ディレクターの誰かが、曲の前に、「音楽・一番」とか「エム・いち」とか叫ぶ事が多い。
 この番号の事を、エム・ナンバーなどと云う。
 希には歌モノでも、タイトルが決まっていない、あるいはタイトルを伏せておきたい場合などに、エムナンバーが付いている事がある。
→ クレジット

 エレキギターと云うと、電気的に増幅するギターと云う事で、非常に広範囲な楽器を指す事になるが、エレキピアノ、と云う場合、普通は、アメリカのフェンダー社製の楽器を指す。  略して「エレピ」などとも云う。
 ピアノと云いながら、弦は無くて、発音の装置は、どちらかと云うと音叉に似ている。 つまり、電気を使っていても、発音装置は、打楽器に近いのだ。 それを電気的に増幅している訳なので、電気的な発振音を使う楽器よりは、生楽器に近いと云えるかも知れない。
 ジャズやポップス界では大変愛用されて、現在のスタジオでも、必ず用意されている。 エレキピアノと云うのは、もちろん日本独特の云い方で、英語ではフェンダー社製の楽器と云う事で、フェンダーピアノと云っているようだ。
 ちなみに、「エレキ」と云う、なんとも大時代的な言葉が付く楽器としては、エレキギター、エレキベース、エレキチェンバロ、などが一般的だが、他にも色々有った様だ。
→ スタジオで活躍していた電気楽器

 ロックの台頭とともに現れた楽器で、ギターのように構えて、ベースのフレーズを弾く。 コントラバスと同じく4弦が一般的だが、5弦、6弦のものもある。
 「エレキベース」と云うのは和製英語、と云うよりは日本語と云ったほうがいいのかも知れない。 正しくはエレクトリックベースだろう。 名前の通り、電気の力を借りなければ、つまりアンプが無ければ全く機能しない。
 フェンダー社製の楽器と云う事で、フェンダーベースと云っていたようだ。
→ エレキベースが席捲

 演歌のエンディングと云うのは、極端なリタルダンドに成っている事が多いのだが、それを称して「演歌リット」と云っている。 リット(rit)とはリタルダンドの事だ。
 別にそんなに極端に遅くしなくてもいいようにも思うのだが、これは、どうも、以前は演歌関係のアレンジャーさんで、棒を振るのが苦手な方が居られて、ミュージシャンも手探り状態になって、結果として極端なリットになってしまう習慣がついてしまったのではないか、と思っている。

 「ミキサー」と云うと、どうも料理で使うあの機械を連想してしまうが、そうでもないようだ。 ここで云うミキサーは、古い辞書には載っていないので、英語としても比較的新しい言葉なのだと思う。 料理で使うあれをミキサーと云うのは和製英語で、実際は blender とか liquidizer とか云うらしい。
 スタジオで云うところのエンジニア(ミキサー)とは、何千と云うスイッチが幾何学模様に並んでいる「卓」の前に座って、各楽器の音色を決めたり全体のバランスを調整したりする。 言ってみれば飛行機の機長、厨房のシェフのような役割を担っている。
 スタジオ録音で、このミキサーさんの役割はきわめて重要だ。 プレーヤーや作品を生かすも殺すも、ミキサー次第、などとよく云われる。
 実際、音楽を扱うエンジニアには、技術屋さんとしての専門的な技術や知識以外に、鋭い耳、音楽に対する深い理解とセンスが要求される。 テレビ局、放送局、レコード会社などでは、そのスタジオに所属するミキサーが担当しるが、それ以外では、アレンジャーは、自分の信頼出来るエンジニアを指名する事が多いのだ。 プレーヤーも、優秀なミキサーさんが担当だと、顔を見ただけで安心して演奏出来る、と云う様な事もある(もちろん、その逆も)。
 そのミキサーさんの手足となって働く、アシスタントと呼ばれる人が、1名もしくは2名居るが、アシスタントに関しては別項を参照してほしい。

 特にスタジオ用語、と云うわけではない。 最近は一般的に修理、と云う事をあまりしなく成ってしまって、具合が悪くなったり、飽きてしまうと、すぐに捨てて新しいものを購入する傾向が有るが、昔は時計などでも、なんども分解掃除に出して、大事に使っていたものだ。 オーバーホールとは、その分解掃除、つまり総合点検修理のことだ。
 フルートの場合、オーバーホールと云うと、ネジ一本、バネ一本までバラして、必要が有れば交換、タンポ(穴を塞ぐ時に直接穴に当たるやわらかい部分)も交換、調整、本体(管)も、傷や凹みを直し、錆び、汚れを取って、綺麗に磨き上げて、ほぼ買ったときと同じ状態に成る。 但し、料金もかなり高くなって、安い楽器を一本買うよりも高く付く事もある。
 スタジオのも、何年に一度かはそのオーバーホールをする必要が有るようで、この場合は桁外れに高くつくらしい。

 overlap 元は映画の手法で、シーンの変わり目などで、元の映像に少しづつ別の映像がかぶってきて、徐々に変わっていく、と云う方法だ。
 同じような手法が音楽のほうでも使われる。

 特にスタジオ用語、と云うわけではない。 クラシックの世界でも、使われている言葉だが、主旋律を主食だとすると、その合いの手に入ってくるフレーズをおかず、と云う訳だ。 オブリガート、と云うのではなくて、マサに合いの手、のような比較的短いフレーズを、オカズと称している。 演歌のアレンジの場合など、このオカズのつなぎ方が、大変重要になって来るようだ。

 クラシック関係で、オーケストラの事を「オケ」と云うのは、随分古くからの事で、「あそこのオケは給料が最悪でさぁ」とか、オケ関係者がよく云っていた。
 クラシック関係でオケと云う場合は、いわゆるシンフォニーオーケストラを指す訳だが、スタジオで「オケ」と云う時は、編成の大小とはあまり関係なく、ただ単に複数の楽器の集団を指している事が多い様だ。 全くの打ち込みのみの音楽にダビングする時でも、「では一度オケを出しますから…」などと云っている。

 琴のテクニックのひとつで、駒を挟んで、弾く側と反対側の部分を手で押し下げて、ピッチをずり上げ奏法を、押し手と云う。
 弦を押す事で張力が増して、ピッチが上がるわけだ。
 ギターのチョーキングに似ている。


 収録時間や演奏時間が予定より延びる事を「時間が押す」或いは単に「押す」と云う。 普通、「押す」と云うのは他動詞なのだが、この場合は自動詞として使われるのが、面白い。

 特にスタジオ用語、と云うわけではない。 どちらかと云えば、オーケストラのプレーヤーが使う言葉だろうか。
 落ちる、と云うよりは、落っこちる、と云う方が、ぴったり来る感じなのだが、要するに、休みの小節を数えそこなったりして、出るべきところで出そびれてしまう事を云う。
 最近のスタジオでは、たとえ落っこちても、あとでダビング出来るのだが、オケの場合は、致命的な事にも成りかねないので、落っこちないように、気をつける必要がある。
 落っこちる原因としては、数え違いが多いのだが、いつもはちゃんとキューを出してくれる指揮者が、たまたまキューを出さなかったために、自信がなくなって、出そびれてしまった、と云うような事もある。
 ときにはミュージシャンが居眠りしていて落っこちる、と云う事も有る。

 音合わせと云うと、チューニングの事の様に聞こえるが、スタジオで音合わせと云うと、どちらかと云えば、「譜読み」、と同じ意味で使われる事が多いだ。 楽譜のチェックやマイクのバランスの具合をみながら、取りあえず音を出してみる、と云う感じだろうか。
 メンバーが集まって、一番最初のリハーサル、と云ってもいいかも知れない。

 ↑の音合わせと似た様な感じなのだが、こちらは、マイクのレベルをチェックする為に、各楽器の音を出してみる事を指す。 マイクのレベル、と云う事は、たとえばフルートを録音するレベルで、ドラムを叩いたりしたら、機械がぶっ壊れる事は、間違いないし、ドラムのレベルでフルートを吹いたら、おそらくは、ほとんど何も聞こえない筈で、各々の楽器によって、レベルが随分違う。 同じ楽器でもプレーヤーによっても、レベルは違って来るし、同じプレーヤーでも、場所が違えば、決して同じ様には行かないので、その辺りをチェックして、バランスを決めるのが、音決めだ。

 多チャンネルで録音したものを、2チャンネルのステレオにまとめる事を落とす、その作業を落としと云う。
→ トラックダウン
→ ミックスダウン

 スタジオ用語と云うよりは、オケやステージ関係で、よく使われる言葉だろう。
 リハーサルやゲネプロの場合に云う事が多いが、例えば1時からゲネプロ、と云っただけだと、なんとなく漠然として、1時に会場に行けば良い、つまり1時集合と云う風にも考えられる。
 1時に会場に着いたのでは、当然すぐにはリハーサルを始める事が出来ない。
 「1時音出しでお願いします」と云う事になると、1時には、ちゃんと席に着いていて、楽器の調整なども済ませて、文字通りに音が出せる状態に成っていなければいけないのだ。
→ 入り

 音録りの事で、単なる録音、と云うのと同じだが、絵録り(録画)に対して音録りと云う様だ。 「音入れ」とも云う。
→ 歌入れ

 特にスタジオ用語、と云う訳ではないが、スタジオでお囃子という場合は、民謡や音頭などの時に、合いの手を入れる数人の女性の事を指す様だ。 普通は3人の事が多いようだが、二人の時もあり、これは多分予算の都合だろう。

 テレビのドラマで、毎日同じ時間帯に放映されるものがあるが、その手のドラマを「帯ドラマ」と云っている。 代表的なのは、「朝ドラ」と云われている、薄謝協会の、朝8時15分から放映されている「テレビ小説」だろうか。 テレビ小説、と云うのは、多分、新聞に毎日連載されている、新聞小説から来ているのではないか、と思う。

 マイクやスピーカーのスイッチを切る、当該の回線を殺す、と云う意味で、「ちょっとケーブル差し替えるから、オフっといて〜」と云う風に云う。 ケーブルやマイクを差し替える時に回線が生きたままだと、とんでもないノイズを出す事があるからだ。
 ラ行5段活用の動詞だ。

 この場合のオペレータとは、シンセサイザーのオペレータを指す。 シンセが登場して間もない頃は、扱いが複雑な上に、楽器も大きくその上高価だった為に、プレーヤーやアレンジャーが個人で持っているというケースは少なかったのだ。 そのため、貸し楽器屋とオペレータがセットになった様な人達が結構活躍していたものだった。
 最近では、シンセの価格もそんなに高くなくなり、扱いも以前に比べれば簡単に成った為に、専用のオペレータと云うのは、かなり少なく成ってしまったようだ。

 吉本などのいわゆるお笑い芸人さんの事ではない。
 スタジオの現場まで行って、演奏する事無くギャラをもらって帰る事を云う。
 理由としては、インペクさんが間違って頼んでしまった、アレンジャーが書く予定をしていたのにそのパートを書いていなかった、などだろうか。 要するにこちら(ミュージシャン)サイドに責任の無い理由で録音が中止になった場合だ。
 わたしが仕事を始めた頃は、世の中の景気が良かったせいで、インペクさんも若干アバウトにやっていたのかも知れないが、この「お笑い」のケースが結構有ったものだ。  最近はインペク業務もシビアに成ってきたようで、「お笑い」の声も滅多に聞かなくなってしまった。
→ キャンセル料
→ ダブルブッキング

 空中に電波を飛ばす、と云うようなイメージで、元は「放送中」の意味だったが、広義に「本番中」の意味で使われる事も多い。
 放送局、テレビ局などでは、本番に入ると、スタジオの中や、入り口のドアの上に「On Air」の赤いランプが点灯するようになっている。
 最近では「Recording」となっている事の方が多いかもしれない。

 音頭と云うと盆踊りなどで浴衣を着て踊る**音頭、と云うのを思いうかべるように、本来は踊りを伴うものであったはずだ。
 それがレコードの普及によって、踊りを離れて歌として聞くだけと云うケースも出てきたようだが、やはり基本は踊りだろう。
 現在知られてい様々な音頭も、意外と新しいものが多いらしく、昭和に成ってから、と云うよりも戦後に作られたものも多いようだ。 **音頭の「**」の部分は、大体が地名で、市町村名、あるいは「河内音頭」「江州音頭」などの古い国の名前が付いたものがほとんどだ。
 もちろん例外も結構有って、「オバQ音頭」、「ドラえもん音頭」、「イエローサブマリン音頭」、etc。

 スタジオで扱う音頭は、ほとんどが前述の市町村名を冠した類の音頭で、おそらくは夫々の地方の町村で、盆踊りなどのイベントの際に踊るためのものだろう。 数から云えば委託版が圧倒的に多い。
 この手の音頭にはいくつか特徴と云うか共通点がある。
 1) リズムが撥ねている、つまりシャッフルと云うか、八分音符が均等ではなくて、付点八分+十六分のように書かれている。 ただ付点八分+十六分で書かれていても、実際には6/8拍子に近いリズムで演奏される。
 2) 1コーラス分は長くはないが、土地の名所旧跡、伝承などを歌い込んでいく関係か、6コーラス、10コーラス、あるいはそれ以上など、多コーラスにわたる事が多い。
 3) 楽器の編成は、普通のリズム隊の他にチャンチキ、大太鼓、三味線、お囃子(女声3名程度)、などは必須で、それ以外にピッコロ、シロフォン、アコーディオンが入る事も多く、ブラスやストリングスが入る事もある。

江州音頭
 多分、一番最初に聞いた音頭が、この江州音頭だった。
 4、5歳の頃、疎開して滋賀県の田舎で過ごしたのだが、戦時中とは云え、盆踊りのような事はやっていたのだろう。 歌詞やメロディー、踊りの振りなどは全く覚えていないが、江州音頭と云うタイトルと、「よいとよ〜やまかどっこいさ〜のせ〜」と云うお囃子だけは鮮明に覚えている。
 もしかすると、最初に認識した歌がこれだったのかも知れない。
 ところで、この音頭だが、前出の「江州音頭」など、起源を辿ると意外と古く、声明にまで遡るのだそうだ。
 声明から、山伏たちが神仏の霊験を唱え歩いた「祭文」、時々のニュース、話題を、門付け芸人が三味線などの伴奏で歌って歩い「歌祭文」、「念仏踊り」、「歌念仏」、と来て、音頭につながるらしい。

 大体が「音頭取り」と云う言葉が有る通り、先に歌い始めて、その後でみんなが唱和するような場合に、その最初に歌い出す事、あるいはその人を音頭というところから、その類の歌や踊りを「音頭」と云うようになったようで、現代の音頭も、独唱の他に必ず合いの手の「お囃子」が入ることに成っている。

 調べてみると毎年10曲程度の音頭の録音に参加している事になるが、市町村合併が盛んに行われたりもしているので、今後もこの手の音頭が作られ続けていくことだろう。

 「オンマイク」と云うのは、簡単に云うと、マイクに近寄る事だろうか。 厳密に何センチ以上、とか云う決まりはないが、まあ、相対的なものだろう。
 オンマイクにするメリットとしては、目的の音以外の、他の音が入りにくく成る、云う事かだろう。 事実、回りに比較的大きな音を出す楽器などが有る場合は、オンマイクにする必要が有る。
 デメリットとしては、残響、反響などが入らなくて、直接入ってくる音ばっかり拾ってしまうので、どうしても生っぽい音に成ってしまう、と云う点だ。 その場合はエコーをつけるなど、電気的な処理で補いる。 それから、例えばフルートの音は、楽器の筒先、つまり足部管の方から出るものの様に思い勝ちだが、実際は、歌口から、とか途中の穴からとか、あるいは楽器本体から、など、色んなところから出ている。 だから、あまり近付けると、その何処かに片寄ってしまって、バランスの悪い音になってしまう、と云う事もある。
 民俗系の楽器は、元々音によって強さにバラつきが大きい上に、特にオカリナなどは、楽器の裏側から出る音もあるので、オンマイクで録ると、かなりムラが出ると思われる。
 皆さんがカラオケなどを歌われる時の手持ちマイクなどは、典型的なオンマイクだろう。 ああ云うマイクは感度が悪い様に作られていて、うんと近づかないと、入らない様になっているので、回りの雑音が多少うるさくても、拾うことがない。
 オンマイクの逆は、オフマイクだろうか、こちらの方はあまり使わないようだ。
→ オンマイク

 クラシックの場合は、指揮者の居ないアンサンブルで、曲を始める時は、なんとなく微妙な動きの合図で始める事が多いだが、スタジオでやる様なポップス系の曲では、指揮者、またはドラム奏者などが、「ワ〜ンツ〜ワンツウスリ、と云う風にカウントする事が多い。
 ステージなど、生演奏の場合は、「1〜2〜1234」と「4」までカウントするが、録音の場合は「1〜2〜123 」と「3」で止める。 これは、「4」までやると、エコーが残って曲の頭に被ってしまうのを防ぐ為、速い曲の場合は「2」で止める事もある。 また、遅い曲だと1小節しかしない事もある。 もちろん、これは4拍子の時の話だ。
 普通、歌モノではイントロが有るが、CMなど、いきなり歌が出る場合は、音が取り易い様に、カウントと一緒に、コードをジャランと弾く事が多い。
 今は、クリックを使う事が多いので、クリックにあわせてカウントすれば良いのだが、なにも無いところで、正確に曲のテンポを出すのは、意外と難しいものだった。 特に、演奏時間をコンマなん秒まで求められるCMの場合は、指揮者なり、ドラマーなり、カウントを出す人の責任は結構重大だった。
 中には、曲のテンポがどうであれ、いつも同じテンポでしかカウント出来ない、という信じられない様なアレンジャーも居た。 そんな場合は、カウントのテンポと曲のテンポが全然違っていて、結構おかしかった。
 そんな場合は、カウントと同じテンポで演奏したら、絶対に時間が狂ってしまう。
 それではいつまで経っても帰れないので、プレーヤーの方で、指揮者のカウントを無視して、適当なテンポで演奏する、なんて、考えられない様な事もやっていた。 ベテランと云われている作曲家でも、テンポ感が悪い、あるいは無い人も居られた様だ。
 最近は、打ち込みのデータにダビングする事も多く、その場合は、クリックが2小節、もしくはテンポが遅い場合は1小節分入っていて、これがカウントに成る。

 スタジオ録音では、ほとんどの場合イヤホンやヘッドフォンを使う事に成っている。
 演奏者の横には、弁当箱を少し大きくした程度の大きさのフェーダーとジャックを備えたキューボックスと称する装置が有ってそのジャックにイヤホンやヘッドフォンを差し込むと、他のセクションの音や、ダビングの場合は最初から入っている音を聞く事が出来る。
 自分自身の音も入っていて、聞くことが出来るが、一旦コントロールルームに行った音が、再び帰って来る、と云う気持からか、「送り返し」とか「返し」と云う。
 自分の音だけではなくて、キューボックスに送られてくる音は、全て「返し」「返り」と云う風に云っている。

 スタジオ関係で「書き」と云う場合は、作曲、もしくは編曲の作業を指す。 また、作曲家、編曲者を指しす事もあって、「書き屋(さん)」などとも云う。
「今日の書きはだあれ?」
とか、
「最近、書きの仕事が多くってさ〜、全然寝れないのよね〜」
などと「書き屋」さんが云っているのをよく聞く。

 今はどうか分からないが、昔のレコード会社のセクションには「文芸部」と「学芸部」というセクションがあって、文芸部は流行歌、歌謡曲などを扱うのに対して、学芸部は、童謡(最近はあまり無いが)、教材など、学校関係向けのものを扱っていた。
 だから、普通、ミュージシャンには直接関係は無いのだが、
「今日の仕事は、なんだっけ}
「多分、学芸らしいよ〜」
などと、云う事が、時々ある。 「文芸」の方は、滅多に云わないようだ。

 古い辞書を見ると「樂師」と云う項目には「音樂をつかさどる人。がくにん。」とあるが、「楽士」と云う項目は無い。
 新明解国語辞典には「楽士」とは「(劇場などに専属して)音楽を演奏する人」とある。「楽師」は「雅楽の楽人」と成っている。
 今ではさすがにそんな事は無いが、昔は放送局やレコード会社の仕事をした際に受け取る支払伝票の、職種と云うような欄には「楽士」と書かれていたものだ。
 「楽士」とは如何にも古くさいと云うか、今では馴染まない言葉だが、無声映画の時代に映画館で演奏していたミュージシャンも楽士と呼ばれていたようだ。

 これはミュージシャンが自分たちの事を指して云う、一種自虐的な言葉で、「どうせ俺達楽隊は所詮川原乞食みたいなもんだしさぁ…」とか、グチをこぼしたりしていた様だ。 自分達の事は楽隊、と云っても、人に言われるとムカッと来る、と云う様な種類の言葉だったのだろう。 今の若いガクタイ達は、あまり使わない様だ。
 我が師匠の「下手な芸術家に成るな、優秀な楽隊に成れっ」と云うお言葉は、中々含蓄が有ったと、今でも思っている。
 ちなみに新明解国語辞典には「楽隊」とは「音楽を演奏する一段の人びと」と云う事に成っていて、差別的なニュアンスは無いようだ。

 オーケストラで使っている様な楽譜は、普通は出版されていて、長年にわたり世界中で演奏され続けている様なものが多いのだが、スタジオで使う楽譜は、作曲、あるいは編曲して、直前に出来上がった楽譜を見て、初めて音を出す様なケースがほとんどだ。 写譜ミスの可能性も有るし、スコア自体が間違っている事もある。 更に、間違いではなくても、音を出してみたら、意図していた音とは違っている事もあるので、現場で修正する、と云う事も少なくない様だ。 この場合の直し、とは、その両方のケースを含んでいる。
→ 押すアレンジャー

 劇伴やCMの場合は、音楽的なイメージの違いとか以外に、時間合わせの直しが結構ある。 その一因としては、実際の映像の尺(長さ)が、作曲→写譜→録音当日の段階を経てる間に変わってきてしまって、打合せの時と違っていた、とか、作曲家の計算間違いなど。 トータルの時間がほんの少し違っていた、とかだったら、テンポを微妙に変える事で解決出来るのだが、曲の途中の絵合わせが違っていたりすると、ちょっと面倒な事に成る。 曲の途中で、なん小節、或は何拍かを追加したり削除する事も可能なのだが、曲の流れは間違いなく壊れるので、中々難しいモノが有る。

 スタジオで使う楽器は、大体はミュージシャンが持ち込むか、でなければ、ピアノやティンパニーなど、大きな楽器は、スタジオに備え付けのものを使う事になっているが、そのどちらも使えない場合は、専用の業者さんからレンタルする事がある。
 貸し楽器を使う場合は、スタジオの備品では間に合わない場合で、大型の打楽器、多いのは和太鼓とか、ドラなどだろうか。
 以前は、チェンバロ、チェレスタや各種の電気楽器が多かったのだが、最近はシンセで間に合わせてしまう事が多くなり、あまり使わなくなってしまったようだ。

 曲の終わり方、と云うよりも最後の音の切り方と云った方がいいかも知れない。
 ディミヌエンドして消えるように終わるのに対して、強いまま、あるいはクレッシェンドしながら、ピークで音を切る終わり方をカットアウトと云っている。
 手元の辞書には、「cut out」と云う熟語はあるが、そう云う意味では載っていないので、和製英語なのかも知れない。
 fade out の反対と云う風にも云えるが、フェードアウトの場合は、演奏しながら機械的に絞り込んで行くが、この cut out は演奏上で行う事が多い。

 ダビングの事だ。
 先に入っている音に、後から別の音を入れる事を、かぶせる、と云う風に表現したのだと思う。
 「あとかぶせ」などとも云う。

 「回り込み」とほぼ同じ意味で使われている。
 「ブラスが弦の方にかぶるので、あとかぶせ(ダビング)にします」など、動詞としても使う。

 「じょうず」でも「うわて」でもなくて、この場合は「かみて」だ。
 これが紛らわしくて、分からなく成ってしまうのだが、ステージに向かって右側が上手になる。
 コンサートの場合、普通は下手から出てくる事が多いだが、編成によっては、両側から出る事も有る。

 テレビ番組の録画をする場合は、まず、楽譜のチェック等をかねて、何度かリハーサルをする。 その後で、今度は演奏と云うよりは、カメラワークをメインにしたリハーサルをする。 どの奏者をどんな角度で、どのカメラが撮るか、と云う様な事を、あらかじめ決められたシナリオに沿ってやるのだ。 でも、実際にやってみると、思わしくない点も出てくるので、途中で駄目出しをしながら、リハーサルする。 これが、カメラリハーサル、いわゆるカメリハだ。 もっと略して「カメリ」などとも云う。
→ ランスルー

 今では世界中で通用する様になった「Karaoke」は、元はれっきとしたスタジオ用語だった。
 昔は、歌謡曲等を録音する場合、歌とオケは同時に録音するのが当たり前だった。 …と云うか、それしか無かったのだ。 その際、ちょっと歌の具合がイマイチ、と思われる様な時は、一応OKが出たあと、「最後にカラオケを一つお願いする」と云う事が時々あった。
 同録でやった分の歌がNGだと、このカラオケを流しながら、歌を入れなおしたのだが、当然、音質は劣化するので、あくまでも最後の手段だったのだろう。
 その当時は、まさかその「カラオケ」だけを発売して、商売に成る、なんて事は、考えも及ばなかったのだと思う。
→ カラオケの語源

 歌ものを録音する場合の手順としては、「オケを録ったあとでゆっくり歌を入れる」と云うのが、今は普通になっている。 でも、オケを録る時に全体のイメージがつかめないと困るので、取りあえず一緒に歌って録音することも多く、これを「仮歌」と云う。
 この仮歌には、歌い手さん御本人が来ることもあれば、別の人が歌うこともある。
 御本人が来れない理由としては、スケジュールの調整がつかなかったとか、先に誰かに歌ってもらって、それを聴きながら覚えると云ったことがあげられる。
 仮歌は、その歌を作った作曲家の先生が歌われることもよくあるのだが、これがけっこう上手な方も居られて、吃驚することがある。 その他には、歌の得意な(?)ディレクターさんや、マネージャさんが歌うなんてこともある。 あと、その仮歌専門みたいな方も居られて、中にはどう考えても御本人より上手じゃないか、と云うケースもあったりして、おかしい。 その仮歌の人は、その場で出された楽譜を初見で歌わなければいけないので、スタジオミュージシャンにちょっと似ている。
 普通は、テスト録音の時に仮歌を一緒に録って、本番の時は、その仮歌とクリックを残して本番を録る事が多い。

 外来語や擬声語などのカタカナ言葉に「る」を付けて動詞にしてしまうと云うパターンはよくあるが、「ガリる」と云うのもその一つだ。
 これはマイクチェックの際に、マイク本体を爪でガリガリする事で、マイクのチェックなら声でも出せばいいようなものだが、周りが騒々しい場合や、マイクの位置が高くて届かないような時に、この方法が有効だ。 近くに他のマイクが有るときなどでも、確実にチェック出来る。 ただし、あまり乱暴にやるとマイクに悪い影響が出るかも知れないから、要注意と云えるだろう。
「ちょっと、それ、ガリってみて〜」などとよく云っている。

 四重奏または四重唱の事だが、単にカルテット、と云うと、弦楽器四重奏の事でを指す事が多い。 普通は第一バイオリン、第二バイオリン、ビオラ、チェロと云う編成に成る。 スタジオでは略して「ゲンカル」等とよく云う。

 ちなみに、*重奏(唱)、と云う云い方は
 二重奏 デュエット(ドゥオ)
 三重奏 トリオ
 四重奏 カルテット
 五重奏 クインテット
 六重奏 セクステット
 七重奏 セプテット
 八重奏 オクテット
 九重奏 ノネット
 と云う風に云う。 これ以上は、十重奏などとは云わない様だ。 一人の場合は、勿論ソロだ。
 これは、楽器だけではなくて、二重唱、三重唱などにも当てはまる。

 いわゆる業界用語の中には略語らしきものが多く、日ごろ何気なく使っていても、元の意味や、なんの略なのか定かでないものが結構有る様だ。
 この「カンパケ」もその一つで、どうやら「完全パッケージ」の略らしい。
 番組、楽曲、CM、映画、など、全て製作が完了して、商品として出せる状態に成ったものをカンパケと称している。

 カンペとは、もちろんカンニングペーパーの事だ。
 ちょっと前までは、テレビスタジオだとカメラの向こう側、ステージだと客席の一番前などに、歌詞やセリフを書いた大きな紙を広げて、ADさんやマネージャーさん達がささげ持っていたものだが、あれがカンペだ。
 さすがに自分の持ち歌では、カンペを使う事はあまり無いと思うが、他の歌手の持ち歌など、覚えきれない場合は、このカンペを使うようだ。
 最近はカンペもハイテクに成って、プロンプターと云うディスプレイを使っているようだ。

 音楽の世界で「キー」と云えば普通は、「ハ長調」「C-Dur」「C major」とか云う、歌や曲の調子、つまり調性の事だ。
 ところが、スタジオで「キー」と云う場合はそれ以外に「音域」「声域」を指すことが多い。
 音域とは、楽器や歌手の、演奏可能な音の範囲で、楽器の場合は大体は決まっているが、歌い手さんの場合は当然ながら人によって違う。 高すぎても低すぎても歌い難かったり声が出なかったりする。 そんな場合、キーが合わない、等と云う。 この場合の「キー」は前述の調性ではなくて、「声域」である。
 歌物のアレンジをする場合は、歌い手さんの音域をよく確認してから、キーを決める必要がある。 時にはそれがうまく行かない事も有るようだ。 その日の体調によって左右される事もあるようで、現場に来てから、急遽、半音(一音)下げて(上げて)やってくれ、などとなるのも、それほど珍しい事ではない。
 その場合、ミュージシャンは、その場でいきなり移調して演奏させられるハメに成る。 昔は「そんな事出来るかいっ!、楽譜書きなおしてこい!」とか云うミュージシャンも居たようだが、最近はそんな事は無いようだ。

 この場合のキープとは、スケジュールの仮押さえのような事を指す。
 色んなケースが考えられるが、一番多いのは、録音のスケジュールは決まっていても、作曲家やアレンジャーさんの楽譜が上がっていなくって、編成が不明、と云うケースだろうか。
 中には、たった1曲の録音の為に、とりあえず数時間、ひどい場合は一日中押さえておいて、色んな人の都合を聞いた上で、その中の1時間に決まる、と云う様なケースもあって、このキープ、と云うやり方は、ミュージシャン側からはあまり評判が良くない様だ。 つまり、キープ状態だとキャンセルになってもキャンセル料は無いし、かと云って押さえられている以上は、勝手に他のスケジュールが入れられない、とか…。

 本番を録って、「OKなのだが、これをキープして、もう一回お願いする」と云うケースが時々ある。 ひどい場合はキープが2本、3本にも及ぶ事があった。
 いくらキープしても、実際に使うのはどれかひとつだけだから、ミュージシャン側から見ると、この「キープ」も、あまり評判がよくない。
 一概には云えないまが、どちらかと云うと、自分の耳や判断力に自信が無いディレクターやアレンジャーさんの場合に、多いようだ。
 マルチ録音になる以前、ツーチャン同録やモノラルで録っていた時代には、このキープが多かったのは、あとでバランスが変えたりパートごとに差し替えたり出来なかったので、ちょっと別のバランスのものも録っておいて、後で選ぼう、と云うような事もあったと思われる。
 最近は、このキープはかなり減ったようで、いまでも「キープで、もう一本」と云うディレクターさんが居たら、どちらかと云うと、古い世代の人かも知れない。

 もちろん、本来は「鍵盤」の意味だが、スタジオ関係でキーボードと云うと、ピアノ以外の鍵盤楽器(ほとんどはシンセサイザー)、もしくはその奏者を指す事が多い。
 シンセ奏者、とか云う事は、ほとんどない。

 オーダーしてあった仕事がなんらかの理由で消滅してしまう事が時には起こる。
 そんな時にミュージシャンに支払われるのがキャンセル料で、これはスタジオ業界に限らず、どの社会にも生ずる事だろう。
 スタジオの場合は、当日に成ってキャンセルされた場合は全額、前日は半額、それ以前は無し、と云うのが一応の原則に成っている。
 ただしあくまでも原則で、この通りには行かない事も、少なくないようだ。

 キュー(cue)、と云うのは、この場合は、スタジオやステージ関係で、ディレクターや舞台監督などから演奏者、演技者に送られる、「出」のきっかけや、演技、演奏の始まりなどの「合図」と思っても良い。 録音スタジオではあまり使わないが、テレビ、ステージ関係では、このキューが進行上大きな役割を果たしている。

 スタジオ録音の場合、楽器ごとに衝立やブースで分離されていて、普通のコンサートの様に、生の音で聞き合わせてアンサンブルする事は、出来ない事の方が多い為に、ヘッドフォンやイヤフォンは必須に成る。
 その場合、楽器によって、ボリュームは違うし、聞きたいバランスも違うので、一人一人、あるいは、グループ毎に、5〜8個くらいのフェ−ダーが並んだ機械をあてがわれて、それで好みの音量やバランスに調整する。 その箱状のものを、キューボックス(cue box)と云う。
 フェ−ダーの一つには、副調室で聞いているのと同じバランスのものが必ず入っている。 普通はこれを聞いていれば良いのだが、パートによっては、特にどれかの楽器を大きく聞きたい、あるいは逆に聞きたくない、と云う事もあるので、残りのフェ−ダーには、例えばリズム隊、ブラス、弦、木管、ハープなど、個別の楽器が入っている。
 リハーサルが始まる前に、必ず、スタジオのアシスタントさんが、キューボックスのどのチャンネルになにが入って居るか、をアナウンスする事になっている。
 あと、クリックを使う場合には、必ず別に専用のフェ−ダーが割り当てられている。

 京琴(キョウゴト)は、スタジオ用語と云うわけではないのだが、ほとんどスタジオでしか使われない楽器だ。
 この楽器は、素性がイマイチ定かでないのだが、琴奏者の山内喜美子さんが、京都の古道具屋だかで発見されたもので、そんなところから、京琴と名付けられたのだそうだ。
 サイズは普通の琴の半分くらいの大きさで、弦は琴と同じく13弦なのだが、一番の特徴は、かなり細い金属弦が張られている点にある。 このこの弾力性に富んだ細い弦のせいで、ギターのチョーキングに当たる「押し手」と云う奏法が、非常に効果的に使えるのだ。
 恐らくは、誰かが実験的に作った楽器ではないか、と思われ、「京琴」と云う楽器は、山内さん所有のもの以外には存在しない様だ。 従って、その名前も、スタジオ関係以外では、ほとんど知られていないのではと思われる。
 細い金属弦故に可能な、押し手の効果や、深いビブラートの醸し出す独特の雰囲気が、特に演歌の世界で好まれて、今でも頻繁に使われている。
 演歌以外にも、チャゲアスの「万里の河」にも入っているし、昔の薄謝協会の名作ドラマ「花遍路」や、人形劇「三国志」など、劇伴にも、使われている。
 この↑写真は、山内さんがキング・関口台スタジオのロビーで京琴をチューニングしておられるところを撮らせて頂いたものだ。

 特にスタジオ用語と云うわけではないが、ライブのステージやテレビの歌番組などでは使う。
 曲が終わって、次の曲に移る際に、間にMCなどを入れずにすぐに続ける時に、曲つなぎと云う。
 歌い手さんは元々覚えていて楽譜を使っていないから問題無いが、ミュージシャンの方は、次の楽譜や持ち替えの楽器などをすぐに用意しておかなければいけないから大変だ。
 数曲を切れ目無く演奏するようにアレンジして1曲にまとめたメドレーとは違う。

 副調室、参照

 ある仕事と次の仕事の間の、準備や移動のための時間をクッション(タイム)と云う。
 クッションタイムのとり方は難しくて、充分に時間を取ったような時に限って、前の仕事が早く終わって、時間を持てあます、と云う事はよくある。
 普通は少なくとも30分、移動距離にもよるが、1時間は空けておかないと、安心出来ない。
 とにかく終わり次第に来てくれ、と云うような場合は、クッションタイムがゼロと云う事もある。
 ミュージシャンに関してだけではなくて、スタジオの場合も、セッティング変えの為のクッションが必要だ。

 テレビの歌番組やライブのステージで、歌い手さんがあらかじめ録音した音源や、時によってはCDなどを流しながら、格好だけ歌っている事が、結構有って、それを「クチパク」と云っている。 口だけパクパク動かしている、と云う意味だ。
 如何にもちゃんと歌ってますよ、と云わんばかりに、ダミーのワイヤレスマイクを持っていたり、体に付けてやっている事もあるから、念が入っている。
 歌い手さんばかりではなくて、オケやバンドでも、先に録音する事がある。
 要するに、録画の際に、映像に集中してやれるために、と云う事だと思うが、どうしても、実際に音をだしているのと、格好だけやっているのでは、差が出てしまうから、よく見ていると分かる事が多い。
→ 当て振り

 パーカッションと云えば、打楽器の事なのだが、このクラシック・パーカッションと云うのは、同じ打楽器でも、ドラム、ラテン・パーカッション、和楽や、その他諸々の民族楽器以外の、オーケストラで普通に使われている類の楽器を指す。
 つまり、ティンパニー、シロフォン、マリンバ、グロッケンシュピール、スネアドラム、グランカッサ(大太鼓)、シンバル、ドラ、などだろうか。
 この云い方は、クラシックの世界では使われる事はなくて、主にスタジオ、ステージ関係だと思われる。 略して、クラパカ、クラパなどとも云うようだ。

 特にスタジオ用語、と云う訳ではないが、スタジオではよく使われている楽器だ。
 クラビエッタ(Clavietta)は楽器名と云うよりは多分商品名だろう。 フランス、もしくはイタリー製ではないかと思われるが不詳。 1970年頃には製造中止に成ってしまっているらしいが、何故か日本のスタジオ界、特に演歌系ではいまだに強い人気が有る。
 同様の鍵盤ハーモニカとしては、性能的にはもっと優れた楽器が何種類か有るのだが、このクラビエッタが好まれるのは、その微妙な音色であるらしい。 スタジオではアコーディオン奏者が持ち替えて吹く事に成っているが、音色としてはアコーディオンよりはハーモニカに近い。 多分、薄いリードによるものだろう。
 それほど頑丈そうな楽器とは思えないし、製造中止の楽器なので、破損した場合の修理には苦労すると聞いている。

→ クラビオリン参照

 クリックと云うのは、「カチカチ」と云う様な音の事だが、スタジオでクリックと云う場合は、録音の時に、バックで流している、メトロノームのような音の事だ。 クリックの音色は、なにかの打楽器に似たような音の事もあるし、全くの電子音の事もある。 この音は、プレーヤーにはイヤフォンやヘッドフォンで聞こえるのだが、最終的には消去される。
 もちろん、音楽の種類によっては、クリックが使えない事も有るし、テンポを機械的に固定してしまう事は決して好ましい事ではないのだが、次の様な事情で、スタジオの録音では、このクリックを使う事が多くなっている。

1)何度やっても、同じ時間で演奏出来る
2)フィルムスコアリングの場合、完璧に絵に合わせて作曲、演奏が出来る
3)指揮者が見えなくても、或いは居なくても、演奏が可能になる。
4) ダビングや、差し替えをする時に、便利。

クリックの弊害としては、

1)機械的なテンポで、音楽が無味乾燥に成る
2)微妙なテンポの変化が出来ない

 最近のクリックは、コンピュータを使っている事が多いので、テンポの変化も可能に成っていて、ちょっと聞いただけでは分からないのだが、やはり、所詮機械なので、限界は有る様だ。
 また、テンポが変わる箇所に来ると一旦クリックと止めるとか、機械を2台使って、途中でテンポを変える、などと云う場合もある。
→ ドンカマ
→ ドンカマ登場

 劇伴などの様に、一度に何曲も録音する場合は、似た様な曲があったりすると、どれがどれだか、後で分からなく成ってしまう恐れがある。 なので、曲を録音する前に、タイトル、またはM-ナンバーを入れる事が多く、これをクレジットと云っている。 普通、指揮者、若しくはディレクターが「エム イチ」などと叫ぶ事になっている。 取り直す場合は、「エムイチ テイクツー」などと云う。

 ドラマ(劇)のバック(伴奏)の音楽と云う事で、劇伴と云う。 今ではテレビ、もしくはラジオのドラマ番組のバックで流れる音楽を指す事が多いが、劇場でやる芝居のバックの音楽も、もちろん劇伴で、歴史的には、こちらの方が古い訳だ。
 ちなみに、メンデルスゾーンの「真夏の夜の夢」や、シューベルトの「ロザムンデの音楽」などは、れっきとした劇伴だ。
 我々は日常普通に使っている言葉だが、やはり業界用語だろう。
→ 劇伴

 「劇伴横町」と云って、分かる人は、もうかなりの少数派になってしまった。
 現在の放送センターが出来る前は、NHKと云えば、千代田区内幸町に在ったのだが、その頃の話だ。
 その内幸町のNHKでは、1スタ、と云うのは、何百人もお客さんを入れて、公開番組の収録なども出来る、かなり大きくて、これだけは3階(2階だったかも)に有った。 その他の2スタ以下は、1階にあって、なんスタまで有ったのかは、よく覚えていないのだが、とにかく、あまり広くもない廊下の両側に並んでいて、諸々の劇伴の録音など、ここでやっていたものだった。 そのスタジオの並びを、誰云うとなく、劇伴横町と称するようになったらしい。

→ こちらを参照。

 特にスタジオ用語、と云うわけではない。 スタジオの用語ではないのだが、レポートにステージ関係の話が出る事もあるので、一応、書いておく。
 ゲネプロとは、ドイツ語の、ゲネラル・プローベ(General Probe)の略で、総練習、通し稽古の意味だ。 昔は学問の世界、特に医学用語などはドイツ語がメインで、大学生なども、シャン(Schoen)だのメッチェン(Maedchen)だのと、ドイツ語崩れのスラングを使って、粋がっていたりしたようだ。
 戦後からだろうか、お医者様も英語を使う様になり、ドイツ語の影が薄く成ってしまった様な感じがする。 でも、クラシックの音楽界では、今でもドイツ語が主流の様だ。 音大やオケ関係などでは、アウフタクト、アインザッツと云う様なドイツ語が使われているし、音名でも、「Cis」「Ges」など、ドイツ音名が幅をきかせている様だ。
 そんな訳で、クラシックとはあまり縁の無いポップス界でも、「ゲネプロ」は使われて居る。

 弦、と云えば、もちろん、弦楽器に張ってある弦の事だが、スタジオで「弦」と云う場合は、弦楽器セクションの事をさす(ストリングス参照)。

 特にスタジオ用語、と云う訳ではない。
 弦のカルテット、つまり弦楽四重奏の事だ。 普通は、第一バイオリン、第二バイオリン、ビオラ、チェロ、と云う編成になる。
→ カルテット

 弦セクションのダビングの事で、どうして弦に関してだけ、こう云う言い方が有るのかは不明だが、リズムやブラスを先に録って、弦をダビングにする、と云うケースが多いからではないか、とも考えられる。
 他にこう云う言い方をするケースは、「歌ダビ」くらいだろうか。

 誰が云いだしたのか分からないが、弦楽器の編成を云うのに、ロクヨンニィニィイチ、等とよく云う。 これは1stバイオリン、2ndバイオリン、ビオラ、チェロ、コントラバスの人数を表している。 アニメの劇伴の場合は、86442くらいが普通だろうか。
 この数字は普通のオケに比べると、かなり少ないのだが、スタジオのスペース、予算等の関係で、どうしてもこの程度に成ってしまう様だ。 録音技術で、これでもかなりの大編成の様に聞こえさせる事が出来る。
 時々、4422のように4桁の時も有るが、その場合はコントラバスが無い訳だ。 演歌の録音では、この4422、もしくは6422の事が多い。 あまり予算の無い時には3311と云うような変則的な編成も有る。 ダブルカルテットと人数は同じだがバランスはこちらのほうが良いかも知れない。

 普通、鍵盤楽器と云うと、ピアノ、チェンバロ、チェレスタ、などを指すのだが、スタジオでケンバンと云うと、ビブラフォン、マリンバ、シロフォン、グロッケンなどを指す事が多い。 何故かこの意味で使うときは鍵盤楽器とは云わず、あくまでも「ケンバン」である。 最近はあまり使われなくなった気がするが、これはシンセに押されて、この種のケンバンがあまり使われなくなってしまったからかも知れない。
 スタジオでは、本来の鍵盤楽器の方は、キーボード、と云う事が多い。
 もっとも、今ではキーボードと云うと、ピアノ以外の鍵盤楽器、それも主にシンセ関係の楽器を指す事が多くなっている。

 coordinator インペクと同じ意味で使われている、と云うよりも、コーディネータの事をインペクと云っている、と云う方が正しいのかも知れない。
 レコーディングやコンサートの為にミュージシャンを集めたり、スケジュールを調整したりする人の事をインスペクター(監督?)と云うのは、どうも正しくないようだし、事実CDのブックレットなどには「インペク」ではなくて、ちゃんとコーディネータと書いてある。

 範囲ははっきりしていないが、リズム隊の中でコードを演奏出来る楽器、もしくはコードネームを扱う楽器と云うところだろうか。 当然ながらドラムやラテンは除外される。
 楽譜の訂正をする時など、「コード楽器の方、聞いて下さ〜い」などとよく云っている。
 ピアノやギターは時によってはコード楽器だったりメロディー楽器だったりするわけだ。

 普通、コーラスと云えば合唱の事で、数十人の合唱を指す事が多いだが、スタジオ関係でコーラスと云うと、普通は3人程度の小人数の事が多い。 もちろん、普通の意味でのコーラス、つまりもっと大人数の事もある。
 コーラスと云っても演歌関係だと、ほとんどの場合が、混声四部、と云うような事はなくて、女声3人、と云うのが多い。 おかしいのは、たった一人でも、コーラス、と云う事があって、要するに、メインのボーカル以外のボーカルは、コーラスで片付けられる様だ。
 また、歌モノで一番、二番の事をワンコーラス、ツーコーラス・・・などと云う。
 他に、電気楽器のエフェクタの一種でコーラスと云うのが有るが、こちら方面はお手上げなので、wikipedia のこちらを参照してほしい。

 ちょっと分かりにくいのだが、最近の映画やDVDで使われているサラウンド方式の音響システムと云えばいいのだろうか。
 前に3個、後ろに2個のスピーカーを配し、それだけだと5チャンネルなのだが、その0.チャンネルとは、更にもう一個追加される、低音専用のスピーカーなのだそうだ。
 詳しくはこちらの
→ 5.1サラウンド方式を参照

 スタジオミュージシャンの仕事をオーダーする時は、時間単位で行う。
 つまり、*月*日、13時〜15時、と云う風になるのだが、この場合、その仕事がどんなに早く終わったとしても、その2時間分(これが拘束時間)のギャラが支払われる。
 逆に、時間が延びた場合は、伸びた分が追加として支払われる。 ただ、10分やそこら延びた場合は、「ごめん、こんど埋め合わせするからね〜」と云う様な事に成る事も、ままある。 後日、その「埋め合わせ」が実現される確立は、かなり少ない様な気がしないでもないのだが、まあ、そのぶん、少しぐらい遅刻して行っても、ギャラから差し引かれる、と云う様な事もあまりないので、お互いに、まあ、いいか、と云う感じだろうか。

 NHKの本館5階の食堂の事。 ちなみに1階の食堂は一食と云っている。
→ イッショク(一食)

 テレビやラジオなどで流れる、いわゆるコマーシャルの事。
→ CM

 最近のCM音楽はテレビ、ラジオを問わず、どちらかと云えばBGM的な使い方が多いが、昔、ラジオで民放が始まってからテレビの初期まで、コマーシャル=コマーシャルソングと云うのが普通だった。
 略してコマソンと云われる事のほうが多いかもしれない。
 ラジオの頃だと「明る〜いナショナ〜ル」「オケラなぜ泣く、あんよが寒い、寒いはずだよ素足だよ・・・」と云う福助足袋の歌などは60年ばかり経った今でも覚えているから、かなりCMとしての効果も上がっていたのではないかと思われる。 ナショナルの歌などは、ブランド名がパナソニックに変更されるつい最近まで使われていたようだ。
 コマソンには必ず商品名や会社名が入る事になっていて、上記福助足袋の場合は、「オケラにやりたや福助足袋を〜」と続く。 調べてみたらこの歌はコマソンの大御所三木鶏朗さん、作詞はなんとサトーハチローさんだった。 そう云われてみればたしかにサトーハチローさんらしい歌詞だが、まさか5番まで有るとは知らなかった。
 初期から現在に至るコマソンのタイトルは、Wikipedia のこちらに、膨大なリストが有る。
→ CM

 特にスタジオ用語、と云うわけではなく、業界以外、一般社会で使われるケースもある。
 「誤魔化す」をラ行五段活用の自動詞化したもので、誤魔化す事が出来る、バレずに済む、くらいの意味だろう。

 特にスタジオ用語、と云うわけではないが、現在、ほとんどスタジオ関係でしか使われていない楽器なのでは、と思われる。
 バイオリンと同じように弾く楽器なのだが、胴を共鳴させるのではなくて、昔のSPレコードのピックアップの様な仕組みで、音を増幅させているので、古い蓄音機に付いていたようなラッパが付いているのが特徴だ。 コルネットと云う名前も、そこから来ているのだろう。
 ちょっとうらぶれた、鼻に掛かったような、独特の音色が、演歌にぴったりのところがあって、今でも時々使われる。

 コロオケとは、今はもう存在しないが、日本コロムビアの専属楽団の事で、正式名称はコロムビアオーケストラだ。
 ただ、レコードによってもいろんな名前が使われていたので、結構混乱しているようなところもあった。
 昔は各レコード会社や放送局なども、それぞれが独自の専属の楽団を持っていたが、その中でもこう云う略称、愛称が定着していたのは「東管」以外にはこのコロオケだけだろう。 それだけにこのコロオケの存在はメジャーだったのかも知れない。
 美空ひばりさんや都はるみさんなどをはじめとするコロムビアから出た数々の名曲のバックは、ほとんどこのコロオケが務めていたはずだ。

 ライブやコンサートのステージで演奏するミュージシャンの足下に置いてある、背の低いモニター(スピーカー)の事だ。
 スタジオの演奏でイヤホンやヘッドフォンが欠かせないのと同じく、ステージ上ではこのモニタースピーカーは必須だ。
 自分の音と全体の音がバランスよく聞ける事が絶対に必要なので、マイクチェックの時にはこのモニターの具合も念入りにチェックする。
 目立たないほうが良いので背も低く黒いものが多く、見ると確かに転がっているような感じがするところから、云われるように成ったのだろう。

 console 元々はパイプオルガンの鍵盤やペダルの部分を指していたらしいが、スタジオでコンソールと云う時は、コントロールルームの調整卓を指す。 コンピュータの制御卓もコンソールと云うようだ。

 弦楽器やフルートなど、比較的音の小さい楽器の場合、ライブなどでは大音量のドラムや電気楽器と一緒にやるには、極端にオンマイクにする必要が有るが、いくら近づけても限度が有るし、プレイヤーが動いたりするとかなり誤差が出るので、特にストリングの場合など、楽器にマイクを付ける事がある。
 そんな風に、音源に直接取り付けて使用するマイクをコンタクトマイクと云う。
 そう云う場合は、特に小型にする必要があるために、エレクトレットコンデンサーマイク、と云う種類のマイクが使われる事が多いらしい。
 また、これとは別にコンタクトピックアップと呼ばれるものもあるようで、これは空気振動ではなく音源、つまり楽器のの振動を直接電気信号に変換するもので、マイクロフォンとは区別されるようだ。 詳しいことは分からないが、エレキギターやエレキベースの場合は、これに近いのではないか、と思われる。

 スタジオ関係でコントロールルームと云えば、いわゆる副調室の事を指す。
→ 副調室

 劇伴で、シーンとシーンのつなぎに入る、ごく短いフレーズを云う。
 溜め録りの劇伴では、このコンマを何種類も録る事が多い。
 ブリッジと云う事もあるが、ちょっとニュアンスが違うかも知れない。

 マイクチェック、マイクチェックと同じような意味で使われる事が多いが、マイクチェックの場合は、単にマイクが生きているか、つまりつながっているかをチェックするので、アシスタントさんがマイクをゴリゴリこすったり、声をだすだけでいいのに対して、サウンドチェックは、実際にミュージシャンに音を出してもらって、どう云う風に入っているかをチェックする、と云う意味だろう。

 略してサントラと云うのが普通になってしまったが、サウンドトラックとは、元の意味は、映画のフィルムの横に焼き付けられた、音声用のトラックの事を云う。
 昔の映画のフィルムを見ると、映像の横にギザギザ模様がプリントされた部分があって、それがサウンドトラックだ。 後には磁気式に成ったようで、こちらは普通の録音テープのようなものだったのだろう。
 昔から、サウンドトラックのレコードは市販されていたのだが、それは、映画の中の音をそのままレコードにしたもので、ほとんどは主題歌など歌の部分だったが、前後のセリフやSEが入っているものも有った。
 後になってビデオテープが登場してからは、そのビデオテープの音声トラックもサウンドトラックと云っていたらしい。 もっともこちらのほうはフィルムのサウンドトラックと違って目には見えない。
 最近のサントラは、ドラマや映画の音楽を、全く別個にCD化したものが、普通だ。 そう云う意味では、もとのサウンドトラックとは、ちょっと違ったものだと云えるだろう。

 CM関係の用語だ。
 画面に出る商品名や、商品名の入ったメロディーをロゴと云うが、その商品名と結びついてしまったような、短いフレーズをサウンドロゴと云う。
 古いところでは、オカリナで「ソ・ラ・ソ・ド」とやると「モ・リ・ナ・ガ」と聞こえてしまうが、あの類を指す。
→ ロゴ

 それぞれの楽器が別のチャンネルに録音される、マルチ録音の場合は、ミスが有ったり、あまりうまく行かなかった場合は、後で修正する事が出来るが、それを「差し替え」と云っている。 差し替えは、自己申告でやる場合と、ディレクタや作曲家、アレンジャーからの要求でやる場合が有る。 差し替えが出来る、と云う事は便利なのだが、あまりこれが多くなると、仕事の進行に差し支えてくる事もある。
 この差し替えに対して、新たに別のトラックに別の音を入れる場合はダビングだ。

 昔は、今のような大きな貸しスタジオは無く、スタジオミュージシャンの主な働き場所と云えば、レコード会社や放送局のスタジオ、もう一つは撮影所だった。
 各映画会社にはそれぞれフル編成のオーケストラが入る広さを持つダビングルームが有った。
 映画の全盛時代の仕事量は半端でなかったはずだ。 撮影所の仕事だけでも充分生活出来るだけの仕事が有ったらしい。

 いつの頃からだったか定かでは無いが、スタジオ業界では作曲家を「作家」と云うようになったようだ。 アレンジャーが含まれる場合もあるようだ。
 多分、プロダクションやインペク業の人たちから広まったような気がする。 個人的にはどうも馴染まないが、所詮業界用語だからこんなものだろう。 意味する範囲は「書き屋」と云うのとほぼ同じだろう。
 ただ、書き屋と云うのはどう考えてもあまり品の良い響きの言葉ではないので、いちいち「作曲家やアレンジャー」と云うのも面倒と云うあたりから、作家と云うように成ったのかも知れない。

 歌の形式は、色々有るが、4小節、もしくは8小節毎に、AABAと云う風に成っている事が多いのだ。 たとえば、皆さん御存知の滝廉太郎の「荒城の月」で云えば
 A)「春高楼の花の宴」
 A)「めぐる盃かげさして」 (A’と云うか、Aを少し変形したもの)
 B)「千代の松が枝分け出でし」
 A)「昔の光いまいずこ」 (A’)
 と云う様な感じだが、その「B」に相当する部分を「サビ」と云う風に云う。 ポップス系の歌や、演歌などでも、このサビの部分で盛り上がる事が多い。
 時間の都合で3コーラスの歌を少し短くしなければいけない様な事がよくあるのだが、そう云う時は「3コーラス目はサビに戻るからね〜」と云う風に云う。
 英語では「ブリッジ」だろうか。
 語源としては、「A」の部分に挟まれた「B」の部分、と云う事で、お寿司のシャリとネタの間に挟まっているワサビからの連想で、サビ、と云われる様に成った、と云う説も有るのだが、定かではない。

→ サウンドトラック

 あまり一般的な言葉ではないかも知れないが、マルチで録ったものを、パート毎にピックアップして聞く事を云う。 ノイズが有ったりした時に、どのパートに入っているのかを調べる時などにやる事が多いのだが、これをやられると、普通では分からない様なミスも、バレバレに成ってしまうので、普通では問題に成らない様なミスでも、差し替えをしたがるミュージシャンも出てきたりして、余計な時間を食ってしまう事もあるようだ。
 「小姑聞き」などとも云う様だ。

 「シセン」「キョクセン」と云われてもなんの事やら分からない人の方が多いだろう。
 あまり広い範囲で使われている言葉とは思えないが、詩先とは歌を作る場合に、先に書かれた歌詞に曲を付けるやり方を云う。
 逆に、曲の方を先に作って、それに歌詞を付けるのは「曲先」と云う。 普通、詩にメロディーを付けるものだと思いがちだが、日本のポップス系の歌には、意外と、この曲先のほうが結構多いようである。
 作詞作曲を兼ねるシンガーソングライターの場合は、歌詞と曲が同時に出来るのかと思って、さる著名なフォークソング系の方に聞いてみた事が有ったが、ほとんどの場合、曲先だとの事であった。
 亡くなった阿久悠さんの場合も、ほとんどが曲先だったと云う話を聞いたことがある。
 昔の唱歌には、外国の歌曲や民謡に日本語の歌詞を付けたものが少なくないが、これなどは典型的な曲先だろう。

 「C」はキーの事なのだが、ハ長調の、と云う意味ではなくて、in C の楽器(つまり移調楽器ではない)の、あるいは、in Cで書かれた楽譜、と云う意味だ。 「メロ」は、メロディーの事で、云ってみれば、普通のメロディー、と云う事になるのだが、これをトランペットやクラリネットなどの、移調楽器で演奏する場合は、譜面よりも一音上げて演奏しなければいけない、と云う事になる。
 Cメロの楽譜には、普通、コードネームが振って有る事が多く、リズム隊、あるいは、必要あれば、なにかメロディー楽器に、このCメロを配っておくと、特にパート譜を作らなくても、同じ譜面を使って、簡単な打ち合わせをするだけで、演奏する事が出来る。
 最近はあまりないが、スタジオの現場で、劇伴を一本、Cメロだけでやってしまう作曲家さんもおられた。 山本直純さんなども、このスタイルに近かったと思う。
→ ヘッドアレンジ

 スタジオ用語ではない。
 「したて」でも「へた」でもなく、この場合は「しもて」と読む。 劇場関係では、大変古くから使われている言葉だと思われるが、客席からステージに向かって左側を下手、右側を上手と云う。

 尺と云うのは、この場合映像もしくは音楽の長さの事だ。  「尺合わせ」とは、元は映画の世界の言葉で、映像などに音楽の長さを合わせる事だ。  映画のフィルムはインチ仕様なので、「尺」、と云うのはおかしいのだが、戦前の尺貫法の時代で、尺とインチは比較的近い事もあり、単に長さの事をさして「尺」と云う風に云うようになったのだろう。
 フィルムのコマ数を調べれば正確な時間が分かるのだが、一コマづつ数えていたのでは大変なので、恐らくは専用のインチ仕様の物差しで計っていたのだろう。 尺、と云うのは、その辺りから来たのかも知れない。

 トランプのカードを繰るのもシャッフルだが、この場合は跳ねる、あるいは弾んだかたちのリズムを云う。 つまり均等な八分音符ではなくって、付点八分音符+十六分音符、あるいは速い八分の六拍子のような、八分音符+16分音符のかたちのリズムを指す。 実際は、前者のように書いてあっても後者ちかいリズムで演奏される事が多い。
 また、八分音符で書いてあっても、楽譜にシャッフルの指定があれば、全体を跳ねたリズムで演奏する。
 また、その跳ね方は、実際は付点八分音符+十六分音符でも八分の六拍子のような八分音符+十六分音符でもなくて、正確にはそのどれにも相当しないような微妙なリズムに成っている事が多い。
 「音頭」のリズムもシャッフルの一種と云えるだろう。

 スコアからパート譜を書いたり、或いは同じ譜面を書き写したりするのが写譜、それを専門にやっているのが、写譜屋さんだ。
 スタジオで使う譜面は、出版された印刷の譜面を使う事は滅多になくて、ほとんどが手書き、もしくは最近だとコンピュータからプリントアウトされた楽譜だ。
 大体は、スコアが上がるのが、録音の前日か当日で、それを写譜屋さんが大急ぎで写譜して、なんとか間に合わせる、と云う事が多い。 時には写譜屋さんが現場のスタジオまで来て、書いている事も有る。
 普通は、一つの仕事は一人の写譜屋さんが書く事が多いのだが、編成が大きかったり、曲数が多い時には、応援を頼む事もある様だ。 また、会社組織で、何人もの写譜屋さんが揃っているところもあって、そう云う所では、数人で分担して書くので、仕事は早いだが、あまりキメ細かいサービスは出来ないだろう。
→ 写譜・楽譜

 文字通り、楽譜の小節ごとに振ってある番号の事だ。 普通は、1小節ごとではなくて、10小節ごと、もしくは、フレーズの切れの良い所に入っている。
 10小節単位だと、数えやすいのだが、音楽的なフレーズとは関係なくなるので、数字的には半端になっても、フレーズで切れているほうが、わかりやすい。
 最近多い、コンピュータで打ち出す楽譜の場合は、1小節ごとに入っている事もある。  また、コンピュータの楽譜は、曲の最初が3小節目に成っている事が多い。 これは曲の前に入っているカウントの部分から番号が振られている事による。

 初めて見た楽譜を演奏する事を云う。 特にスタジオ用語、と云う訳ではない。 人によって、得手、不得手が有るが、初見演奏が出来る事を、初見が利く、と云う。
 初見(ショケン)が利く、利かないは、楽器により、また、個人差も有るが、これは単に技術的な問題で、音楽性とは全く別のものだ。 ただ、現場で渡された譜面を、すぐ演奏しなければいけないスタジオミュージシャンの場合は、この初見の能力は必須条件と云える。
 正しくは「初見演奏」だろう。
 音大の入試やオーケストラのオーディションには、必ず初見演奏のテストが有る。

 シンセサイザー(synthesizer)の事。 音楽関係で云うシンセサイザーは音を synthesize つまり合成する装置と云う事だろう。 初期の目的としては、今までに存在しなかった音を創り出す、と云う事で、分かり易い例としては富田勳さんの作品群だろう。
 オーディオ関係には全く疎いのだが、普通スタジオで云うところのシンセは、そう云う合成装置としてよりは、プリセットされている既成の音源を手軽に選んで演奏できる装置、と云う使い方がほとんどだ。 シンセサイザーと云うよりはサンプラーと云った方が近いのかも知れない。

 特にスタジオ用語、と云う訳ではない。
 数字の123を、ドレミに置き換えて表す記譜法だ。 元々はハーモニカの記譜を易しくする為に考案されたもので、ハーモニカの演奏家で、メーカーでもあった、日本人、宮田東峰さんの発明と云われている。 ハーモニカ以外に、大正琴や、中国の民族楽器の演奏家も使っている様だ。 詳細は数字譜参照。

 スタジオでの活動をメインとしているミュージシャン。
→ スタジオミュージシャンとは?

 云うまでもなく、スタンバイ(stand by)から来ている、ラ行五段活用の動詞。
 準備を済ませて、つまりいつでも動ける状態で待機する、と云うような意味だろう。
 「木管セクションはキューが出るまで上手でスタンバって下さいね〜」みたいに、どちらかと云えばテレビやステージ関係で、よく使われる。

 弦楽器セクションを指す。 この場合は、普通10人以上のセクションを指す事が多いだ。 (カルテットダブルカルテット参照)

 特にスタジオ用語、と云う訳ではない。 この場合のストレートとは、楽譜上の繰り返し、つまり、普通のリピート記号、DS、DC、ビス等を省略する事を云う。 曲の中の全ての繰り返しを省略する場合は「全スト」などと云ったりもする。

 特にスタジオ用語、と云う訳ではない。
 もはや死語かも知れないが、これは昔(1960年代?)小学校で使われていたプラスチック製の縦笛状の楽器で、多分商品名だったのだろう。 と思ってちょっと調べてみたら、スペリオパイプとは日本管楽器社で教材用に生産されていたプラスティック製の楽器、と云う事だった。
日本管楽器
 わたしが中学でブラバンをやっていた頃にはニッカン、つまり日本管楽器は健在だったが、昭和45年、つまり1960年にヤマハに吸収合併されたようだ。
 スペリオパイプでジャーマン式のリコーダーをモデルにしたものを作った為に、現在でも、学校のリコーダーではジャーマン式のリコーダーが巾を利かせている。
 ジャーマン式は、ハ長調の音階が楽ななために取っつきが簡単なだけで、シャープやフラットの付いた音は、かなり出しにくく、本格的な演奏には適さない。
 「優れた笛」と云うような意味のネーミングのわりには、楽器としてはどうもイマイチな代物だったような気がするが、実物に触れた記憶があまり無いので、はっきりしたことは分からない。
 ジャーマン式のリコーダーに近い物だったのではないかと思われるが定かではない。
 初めてリコーダーをスタジオに持ち込んだ頃は「なんだ、スペリオパイプか」と馬鹿にされたものだ。
 スペリオパイプと云う名称はほどなく消滅してしまったようで、その後数年間は「たてぶえ」と云う時期がある。 スペリオパイプを「たてぶえ」と云うようになったのか、すでにリコーダーが採用されていて、それをたてぶえと称していたのかは定かではないが、やがてリコーダーが定着する事に成った。
 学校教育で使われる笛が「たてぶえ」から「リコーダー」に成ってからは、バロック式の楽器も作られるように成ったが、スペリオパイプがジャーマン式だったために、バロック式は中々浸透しなかったようだ。
 学校でリコーダー(と云う名称)が使われる前は、レコーダー、つまりテープレコーダーは知っていても全く同じ綴りのリコーダーと云う楽器の存在を知っている人は少なかった。

 テレビドラマで、溜め録りで録った音楽の中から、ドラマのシーンに合う曲を選ぶ役割の人の事で、正しくは選曲家だろう。 作曲家自身がこの選曲に関わる事はほとんど無いらしい。
 溜め録り方式の劇伴では、この選曲の仕事は非常に重要で、折角作曲家が良い曲を一杯書いても、この選曲が適切でないと、ぶちこわしにも成りかねない。
 あるいは、予算が充分に取れないドラマや報道番組のBGMは、作曲家も居なくて、諸々のサントラや、フリーで公開されている音源の中から適当なものを選んで使う事もあるらしい。 ドラマのエンドロールで、選曲家の名前だけでが出て、作曲家の名前が見あたらない事があるが、多分そう云うケースだろう。 特に報道番組などには、市販されている映画やアニメ、ドラマのサントラの音楽が日常的に使われているが、その場合は多分規定の料金が支払われているはずだ。

 廊下からスタジオに入る場合、ドアを二枚通る事が多いのだが、この二枚のドアの間を前室と云っている。
 二重ドアに成っているのは音が漏れない為で、普通は単なる通路なのだが、ブースが足りない場合など、この前室を使う事がある。 通路なので、この前室に入れられると、狭くて響きは悪いし、棒は見にくいし、当然ながら人の出入りが多くて、落ち着かないし、ロクな事は無い。 唯一のメリットは、終わったときには他の人よりも早く出れることくらいか。

 スタジオでは、普通は作曲家やアレンジャーが指揮者を兼ねる事が多いのだが、中には棒が苦手な作曲家、あるいはコントロールルームで音を聞きたい、と云うアレンジャーも居られるので、そう云う場合に代わりに棒を振る指揮者の事を「代棒」と云う。
 ちなみに、この「代棒」と呼ばれる方は、作曲家さんやアレンジャーさんが好みの方・信頼をおいている方を、作曲家さんたちご自身が指名される場合が多い。

→ 調整卓

 これも、特にスタジオ用語、と云う訳ではない。 DAT、つまりデジタル・オーディオ・テープの略だが、プロのスタジオで使っていた、デジタルテープなどは、ダットとは云っていなかった様だ。
 普通、ダット、と云う場合は、ウオークマン(カセット式)をちょっと大きくした様な、デジタル録音用のコンパクトなテレコ、もしくはそのテープを指している様だ。

 dubbing と云う単語は、わたしが中学生の頃に使っていた、昭和30年頃のコンサイスにも載っているところを見ると、かなり古くから使われていた言葉の様だ。 元は、映画のフィルムに合わせて、擬音や音楽を重ねて録音する事を云っていたのだが、現在では、それ以外に、先に録音したものに、別のものを重ねて録音する、と云う意味でも使っている、と云うより、そっちの意味の方がメインだろう。
 このダビングによって、一人で二重奏、3重奏・・・などが出来たり、スケジュールが合わなくて、一緒に出来ない場合など、後で録音する、と云う事が可能になる。
 一度も会った事も無い人と、共演出来たりするのも、ダビングのお陰だ。
 ダビングに関してはこちらも。

 文字通り、ダビングする部屋なのだが、普通、ダビングルームと云うと、映画の撮影所にある、録音スタジオを指していた。 最近は、撮影所に行って音楽のダビングをする事は無くなってしまい、ダビングルームも、無くなってしまったので、もはや死語なのかも知れない。
 撮影所のダビングルームは、今のスタジオに比べると、かなり広かった。 映画館と同じ様な、大きなスクリーンが掛かっていて、ミュージシャンはスクリーンを背にして配置され、指揮者はその画面を見ながら、棒を振る様になっていた。
 エアコンの設備等はなくて、ストーブを焚いたり、氷柱を立てたりしていたのを覚えている。

 弦楽器の編成の一つの形だが、カルテットが第一バイオリン、第二バイオリン、ビオラ、チェロなのに対して、それぞれが二人づつ、合計8人の編成をダブルカルテットと云う。 略して「ダブカル」等と云う事も多い。
 普通、弦の編成は、第一バイオリン(6)、第二バイオリン(4)、ビオラ(2)、チェロ(2)と云う風に、上の方が人数が多いのが普通だが、ダブカルの場合は同数になるので、バランスなど、難しい面もある様だ、どちらかと云うと、中低音が充実した、独特の響きがある様だ。

 何かの間違いで、同じ時間に、ダブって仕事を取ってしまう事が、時々あるが、これをダブルブッキングと云う。 よく有るのは、出先で仕事を受けたら、家に帰ったら、同じ時間帯に入っていた、と云うケースだろうか。 当然、謝ってどちらかを断らなければいけない。
 昔、とにかく来る仕事を取りあえず全部取っておいて、最後に一番美味しそうな仕事を自分がやって、後の仕事はトラを入れる、と云うスタイルでやってる人が居たが、当然ながら、あまり評判は芳しくなかった様だ。
 あと、インペクさんが一人でいいところを間違って二人呼んでしまう、と云うケースもあるが、これもダブルブッキングだろう。 この場合は、そのどちらかが「お笑い」と云う事になる。

 駄目出し、と云うのは、スタジオだけでなく、演劇関係などでもよく使われているし、舞台関係の方から来た言葉かも知れない。 リハーサルや、時には本番の後などでも、演出家やディレクタが、問題点を指摘する事を云う。
 録音スタジオでも、同じ様な事は行われるが、「駄目出し」と云う言葉はあまり聞かないようで、主にテレビ関係の方で使われるのではないかと思う。

 初期の「溜め録り」は、毎日放送される番組の音楽を、1週分まとめて録音する事を云ってました。 この場合は、6(5)日分、をまとめてとる、と云う事なので、ギャラは6(5)回分、でなくても、それに近い額が支払われていたので、ミュージシャンにとっては結構オイシイ仕事と云われていた(薄謝協会の朝のドラマetc)。
 それが、何時の頃からか(20年くらい前?)、予算削減のために、劇伴を1クール分(約12回)、或いはもっとそれ以上を、一度にまとめて録音してしまう、と云う様な事が行われる様に成った。 この場合は、毎回の画面に合わせて録音するのではなくて、あらかじめ想定された、何種類かのパターン(戦闘シーン、ラブシーン、コミカルなシーン、悲しいシーン、etc)を、適当な長さで取っておいて、後でその中から選んで、場面に付ける、と云うわけだ。 当然ながら、場面の転換や、劇中の人物の動きや表情に音楽をあわせる、つまり、芝居と音楽が一体となってドラマを盛り上げる、と云う様な事は出来なくなり、劇伴は単なるBGMに成り下がってしまった。 いま放映されているテレビのドラマは、ほとんどがこの方式をとっている様だ。 中には何十年も前に録音した音楽を、そのまま延々と使っているケースも有る。
 この溜め録りの出現によって、劇伴の仕事が、激減したのは、云うまでもない。

 チューナーと云っても色んなものが存在すると思われるが、ここで云うところのチューナーは楽器のチューニングをするため、もしくは確認するための機械と云う事になる。
 最初はギターやベースのチューニングのために、ギターの6本の弦、つまり下からE、A、D、G、B、Eのチューニングしか出来なくて、それぞれにダイアルで合わせて音を出すと、高いと↓、低いと↑のマークが出るなどで、チューニングの参考にするものだったが、やがてクロマチック全ての音に対応するようになり、いちいちダイアルを合わせなくてもいいようになった。
 つまりGならGの音を出すと、メーターにGの表示が出て、高すぎる、あるいは低すぎると云うサインが表示されて、簡単にピッチを修正出来るように成った。
 この手の機械にあまり依存するのもどうかと思われる面もあるのだが、このチューナーの出現によって、極端にチューニングの悪いギターやベースが無くなった事は事実だ。
 ただ、その反面、どちらかと云えば個性的なチューニングをしていたプレイヤーが、普通の平坦なチューニングをするようになって、つまらなくなった、と云う事も無きにしもあらずだ。
 チューナーのせいかどうかは定かではないが、以前は上ずりがちな事が多かった弦セクションが無くなったようだ。
 いずれにしても、あまりこう云う機械に依存するのは問題で、時々確認の為に使う、と云う程度にとどめるべきであろう。
 チューナーも登場した頃は弁当箱くらいの大きさがあったが、徐々にコンパクトに成り、現在では携帯電話よりも小さく成っている。
 個人的には、笛を作る際のチューニングには結構役に立っている。

 スタジオの副調室(別項参照)に有る、音量、音質、バランス等を調整する為の膨大な数のスイッチ類が並んでいる、大きなテーブル状の物を指す。 これを操作するのは、エンジニア、またはミキサーと呼ばれる人だ(別項参照)。 略して「卓」等と云う事が多い。

 チョクドリ、ジカドリとも云う。
 昔は、エレキギターなど、電気楽器の音を録る時は、スピーカーの前にマイクを立てて、他の楽器と同じ様に録っていたのだが、いつの頃からか、マイクを通さずに、直接ラインを繋いで録る様に成った。
 これのメリットは、マイクから入る余計なノイズを拾わずに済む、普通だと大きな音を出す電気楽器を、回りこみの心配無しに、弦やフルートなどと同じフロアに配置出来る、などだ。 デメリットとしては、音色がちょっと違った感じに成る、と云う事が有るのだが、 最近は、ほとんどの電気楽器が、この直録りに成っている。
 この直録りをやっていると、ミュージシャンはヘッドフォンで聞いているので、回りの音は聞こえないし、逆に、回りで大声で騒いでいても、まったく関係ない。

 著作権が文学や音楽など、作品に付随する権利であるのに対し、著作隣接権は作品が演奏されたものが録音、録画されて、商用などに使用された際に発生する権利である。
 それだけに、スタジオミュージシャンにとっては重要な権利と云える。
 著作隣接権は、例えば貸しレコードでレンタルされた場合、放送、再放送された場合など、色んなケースに発生する。
 詳細はこちらを参照。

 スタジオ用語、と云うわけではない。
 ミュージシャンの世界でツアーと云うと、大体は歌い手さんのバックバンドで回る、演奏旅行を指す。
 スタジオミュージシャンがツアーに参加する事も、よくあるが、1週間くらいのものから、数ヶ月に及ぶものも有って、長いツアーが入ると、スタジオの仕事と両立するのは、大変なようで、普通はツアー専門にやっている人の方が多いと思われる。

 ツーチャンとは、2チャン、つまり2チャンネルの事だが、どこぞのBBSの事ではない。 要するに、2チャンネルのステレオの事なのだが、普通は、レコーディングの時は、マルチトラック(マルチチャンネル)で録音して、最終的に、この2チャンネルのステレオにまとめる、この、まとめる作業を、トラックダウンと云うのだが、ツーチャンに落とす、などとも云う。
 ただ、事情によっては、録音の時に、いきなりこのツーチャンで録音する事もある。 この場合、差し替えが出来ないので、ミュージシャンも緊張するのだが、おそらくは、エンジニアーさんの方がもっと大変なのでは、と思っている。 この場合、全ての楽器を一度に録ってしまうので、ツーチャン同録、などとも云う。
 「ツーチャン」と云う風に云う様になったのは、マルチ録音に成ってからの話だから、そんなに古い事ではない。
 ツーチャンに関してはこちらも参照。

 スタジオ録音でマイクの本数が増えて、各楽器の間に衝立を立てたり、遠く離したりするよう成ってくると、ひとつ困ったことが出てきた。
 他の音が直接ではなくてあちこちに反射して聞こえてくるので、それまでのように特に意識すること無く、普通に他のセクションの音を聞きながら演奏していると、乗り遅れたりずれたりするように成ってきたのだ。
 プレイバックを聞くと明らかにずれているのが分かるので、そう成らないようにするには耳に入ってくるよりも少し先に、つまり前乗りで演奏しないといけないわけだ。  この前乗りで演奏することを「突っ込む」と云っていた。少し乗り遅れたりすると「もう少しつっこみ気味でお願いします〜」などと云われたものだ。

 自動車の修理工場などの作業着もつなぎと云われているが、この場合はそれではない。
 ひとつのセッションは、同じ人が最初から最後までやるのが普通なのだが、長い仕事の場合、諸々の都合で、どうしても途中までしか出来なかったり、途中からしか入れない、と云う事がある。
 そう云う場合に、誰か他の人を変わりに頼む事があって、その事を、あるいは、代わりに頼む人の事を、「つなぎ」と云っている。 インペク屋さんがオーダーする事もあるが、プレーヤーが個人で誰かに頼む事もある。
 本来は、そういう場合は断れば良いのだが、一部分だけでもいいから、本人が出て欲しい、と云われるケースも有るのだ。
→ トラ

 2コーラス半、と云う事だ。 CDが登場する以前は、1曲あたりの時間制限が厳しかったので(約3分)、本来、3コーラス有る歌を、時間の都合などで、3コーラス目は曲の頭ではなくて、サビに戻る、と云う事が、以前はよく有った。
→ ワンコーラス

 two mix の事なのかと思うのだが、定かではない。 キューボックスには楽器別のチャンネルがいくつか有るが、それとは別に、その「ツーミックス」と云われているチャンネルがあって、そこには副調で聞いているのと同じもの、つまり全ての楽器を、とりあえずバランスをとったものが、ステレオで聞ける様に成っている。 指揮者やアレンジャーは、これを聞く事が多い。 ミュージシャンでも、全体の感じを聞きながらやりたい、と云う人は、このツーミックスをメインに聞く。
 ミュージシャンによっては、このツーミックスを聞かない人もいる。 特に弦楽器の場合は、これを聞いていると、どれが自分の音なのか分からなくなってしまうので、自分で単独のチャンネルを適当にアレンジして聞いている様だ。 ちなみに、わたしの場合は、ツーミックスとクリックだけでやっている事が多い。

 テイクワンとかテイクファイブとか云うが、そのテイクだ。
 日本語には成りにくいが、強いて云えば「録音(録画)」、「録音(録画)すること」もしくは「録音(録画)されたもの」と云うくらいだろうか。
 「すみません、もうワンテイクお願いします〜」とか
 「ひとつ前のテイクをOKにします」
 と云う風に使う。

 テイクファイブと云うジャズの曲があったが、録音する際に、何度かやり直しをすると、順にテイクワン、テイクツー、と云う風に云う。
 ポールデズモンドのあの曲は「5分間、休憩しようか」と云う意味だと云う説も有力なのだが、スタジオ的には、最初は題名が決まっていなかったのが、何度かやり直している内に、5回目つまりテイクファイブでOKに成ったので、それがそのままタイトルに成ったのではないか、と想像しているのだが、実際はどうなのだろうか。
 総体に、ディレクターさんや、製作側の人達は、何度もやりたがる傾向にあるが、実際の演奏は、テイクワンや、それ以前の、テスト録音の方がリラックスした自然な流れで一番良い事が多いのだ。

 弦セクションの低いほう、と云う事で、ビオラとチェロを指す事が多いようだ。
 「低弦」とは云っても何故か「中弦」「高弦」とは云わない。
 主に演歌関係のスタジオで使われるような気がする。

 普通、歌モノやインストの録音の現場では、譜面のチェックを兼ねて、2、3度演奏した後、テスト録音をする。 実際に録音すると、どう云う風になるか、チェックする訳だが、たまたまその時の演奏が、とてもうまく行ったりすると、そのまま本番として採用されてしまう事がある。
 テスト本番、と云うのは、もしかすると、本番に成るかもしれない、と云う前提で、テスト録音する事を云う。 テストの場合は、比較的リラックスした雰囲気で、いろんな事を試してみたりもするのだが、テスト本番となると、そう云う事は出来なくなる。

 読んで字の如く、と云う事だが、劇伴、歌モノ、CMなどで、若干事情が違う。
 歌モノを録る時は、かならずテスト録音をして、プレイバックを皆で聞く事に成っている。 この時は、仮歌(本人の事も、代わりの人が歌うこともある)を同時に録って、本番の時はその歌とクリックだけを生かして、オケを録り直す、と云う事が多い。
 劇伴の場合は、時間の制約が多い事もあるので、一曲毎にテスト録音をしてプレイバック、と云う事はほとんどなくて、最初の曲だけ、念のためにプレイバック、と云うケースが多いだ。 もちろん、なにか問題があれば、途中でもプレイバックする事はある。
 ↑のテスト本番も参照

 この場合の「デッド」とは、スタジオやホールの残響が少ない事を云う。 以前のスタジオは、極端に残響を減らした作りの、デッドなものが多かったのだが、最近はそうでもないようだ。 特に、大きなスタジオのメインのフロアは、かなり残響が豊かなところが多くなっている。
 程度問題ではあるが、電気楽器は別にして、アコースティックな楽器の音に、残響と云うのは必須であると思っている。 と云うよりも、適度な残響の加わった音が、楽器の音である、と云ってもいいだろう。
 残響の少ないところで演奏させられると、自分がひどく下手に成った様に感じて、そう云う場所では、とても良い演奏は出来ない。

 コンピュータやシーケンサーに音のパターン(音程、発音位置、発音時間)を入力する時に、テンキーなどを使うのを打ち込みと云うのに対し、普通に演奏するようにキーボードで弾いたまま入力するリアルタイム入力の事を手弾きとも云う。

 特にスタジオ用語、と云うわけではない。
 芝居やコンサートの終了後、ファンが楽屋口などで役者やミュージシャンが出てくるのを待つ事。 単に見送るだけの事も有るし、サインをねだったり写真を撮ったりと云う目的の事もあるだろうが、ファンの中にも暗黙のルールみたいなものが有るようで、みだりに群がったり接触したりすることは少ない。
 スタジオ用語ではないが、スタジオの入り口でも「入り待ち」「出待ち」のファンを見かける事もあるので、まんざら関係無いわけでもないだろう。

 仕事を頼んで、事前に、こんな感じだから、と云うのが分かる様に、ピアノやギターとか、最近では打ち込んだものを送ってくる事がある。 以前はカセットの事が多かったので、デモテープと云っていたのだが、それがMDやCDになり、最近ではMP3などのデータをメール送ってくる事が多くなった。
 他に、デモテープと云うと、新人のミュージシャンが、自分達の演奏や作品を聞いてもらうために、レコード会社等に送る音源の事を指す場合がある。

 スタジオの仕事をする様になって、かなり長い間、このデルマと云う言葉の語源(?)、と云うか意味が分からなくて、「出る間」の事かな、などと思っていたのだが、実は、これはダーマトグラフ(dermatograph) と云う、三菱鉛筆社製の特殊な鉛筆の事だったのだ。
 芯を紙で巻いてあって、糸を引っ張ると紙がはがれるように成っている。 普通よりも柔らかい芯が使われているので、本来は、皮製品などに書く為に使われていたらしいのだが、映画のフィルムに直接印を付けるのにも適している事で、映画業界ではよく使われていたようだ。
 音楽やセリフなどをダビングをする際に、出だしの場所がわかる様に、フィルムに印を付けるのだが、スタジオでは、この印の事をデルマと云っていた。 今では、ビデオやデジタル映像に成ってしまったので、スタジオでこのデルマにお目にかかる事は無くなってしまった。

 これも、特にスタジオ用語、と云う訳ではない。 テープレコーダーの略だが、最近はテープを使わないハードディスク録音の場合でも、長年の習慣もあり録音機材と云う意味でテレコと云っているようだ。

 テレビのドラマの主題歌等を録音する場合に、同時に、アルバムやシングルにする分も取ってしまう事が最近多く成っている。 CDにする分は、3分から長いものでは5、6分のものもあるが、テレビのいわゆるオープニング、エンディングテーマとして使う場合は、長すぎるので、短めのバージョンを別にとる。 普通はワンコーラス半(別項参照)、いわゆるワンハーフなどと云うサイズに成る。
 また、コマーシャルの場合も、フリーサイズと云って、店頭などで流す音楽として、長めのものをとる事があるが、それに対して、本来のCMとして、テレビで使うのをテレビサイズと云う事もある。

 特にスタジオ用語、と云う訳ではない。
 現在はもう存在していないのだが、東京放送管弦楽団の略。
 以前は、NHKの東京、大阪、名古屋、広島、松山、仙台、etcの中央放送局、と呼ばれる放送局の、全てだったか一部だったかは定かでないだが、少なくとも、東京、大阪、名古屋には専属の楽団が有って、放送番組や、放送局主催の各種のイベントなどの仕事をしていたようだ。
 東京に在ったのが、東京放送管弦楽団で、歌謡番組を始め、様々の番組で活躍していた。
 編成は、2管編成程度のオケに加えて、アコーディオンやリズム隊も入っていたのかもしれない。

 talk back が正しい英語かどうか、定かでないのだが、スタジオでトークバックと云う場合は、副調室のマイクでスタジオ(プレイヤーがいるフロア)に向かって話しかける事、またはその装置を指す事に成っている。
 スタジオ内でのコミュニケーションは、意外と難しい面がある。 たとえば、フルートやバイオリンなど、生楽器の場合は、そのまましゃべれば、マイクを通して話が通じるのだが、ドラムスやブラス関係のマイクだと、レベルを絞っているので、よほど大声でしゃべらないと、聞こえない事が多い。 また、エレキギター、エレキベースなど、電気楽器の場合だと、そのままでは全く話が通じないので、コミュニケーション用に、別にマイクを一本立てている事が多い。 或は、キューボックスにマイクが付いていて、ボタンを押しながら話すと、全員に聞こえる様に成っている事もある。
 しかし、これだけ技術が進歩しているのに、トークバックを始めとして、スタジオ内のコミュニケーションに関しては、必ずしもうまく行っているとは云えない面が多いのは不思議といえば不思議だ。 多分、設計する人が、現場の状況をよく分かっていないケースが多いのでは、と云う気がする。
 例えば、ほとんどの場合、イヤフォン、ヘッドフォンを使っているので、ヘッドフォンを装着している場合は、スピーカーからだと通じない事が多いし、逆に、イヤフォン、ヘッドフォンの回線で話しかけると、その時、外してしまっている人には、全く通じない、など。 それに、どう云う訳か、トークバックの音質が悪い事が多いし、マイクの位置も、適切とは云えない事が多い。
 トークバックのマイクが、テーブルに仕込んである事がよくある。 普通、アレンジャーやディレクターは、スコアを見ながら話す事が多いから、スコアをめくる音ばかりマイクに入って、肝心の話し声がよく聞こえない、と云う事も、ある。 これなども、現場の状況をよく知らない人が設計する為だろう。
 また、アシスタントのマイクとディレクターのマイクのレベルが違って、聞き辛い事もよくある、などなど、何かと不満が多いのが、トークバックだ。

 同時録音の事で、リズム隊、弦、木管、ブラスなどを、同時に録音する事を云う。 一見、当たり前の様な事なのだが、最近では、それぞれを別々に録る事が、結構多くなっているので、一緒に録る時には、特に同録などと云ったりする。
 劇伴や演歌の場合は、この同録が多い。
 歌モノの録音で、同録、と云うと、オケ(バンド)と歌を同時に録ってしまう事を云う事もある。 この歌とオケの同録、と云うのは、歌い手さんは、当然ながら、スタジオに入るまでに、完璧に仕上げておかなければいけないし、オケのメンバーにとっても、大変な緊張を伴うものだった。
 この歌の同録は、昔は当たり前の事だったのだが、録音技術が発達するにつれて、オケを先に録って、歌はあとでゆっくりダビングする、と云う形が主流になってしまった。 最後まで歌の同録を貫かれたのは、美空ひばりさんだろうか。

 この「ド」と云う接頭語(?)はどこから来たのか、定かではないのだが、「ドケチ」とか「ドアホ」とか云う、関西系のプリフィクスから来ているのではないか、と個人的には思っている。 普通は演歌の中でも、古いスタイルの、特にドロ臭い感じのものを指す事が多いのだが、厳密な定義は無い。

 特にスタジオだけの用語、と云う訳ではない。
 仕事の直前に成って、急に一方的にキャンセルされる事。
 土壇場でキャンセル、から来ているのだろう。
 当日に成ってからのキャンセルは、原則として全額保証、前日の場合は半額など、一応決まりのようなものは有るのだが、あくまで原則であって、諸々の事情、力関係なども絡んできて、その通りに行かない場合もあるだろう。

 特にスタジオ用語、と云う訳ではないのかも知れないのだが、他の分野で使われているのかどうか、定かではない。
 要するに、現金払いの事で、仕事が終わった時点で、ギャラが支払われる事を「とっ払い」と云っている。
 その「とっ払い」でない場合はどうかと云うと、その場では払わずに、1、2ヶ月後に銀行振り込みなどで支払うわけで「ツケ」などと云っている。
 普通、インペク屋さんのほうにクライアントから入金するのは、数ヶ月後になることが多いようだ。 とっ払いだとその間は立て替えなければいけなくて、金額が大きく成ればその分の利息が馬鹿にならないので、もしツケだと、その金利が助かる、と云うわけだ。 その代わり、ツケにしているミュージシャンには、一応優先的に仕事を回す、と云うような、暗黙の了解、のようなものがあるのでは、と思う。
 インペク屋を通さない、プロダクションや制作会社の直の仕事だと、黙っていると請求書を出して、後日振り込み、と云う事が多いので、あまりなじみのない会社で、信用しかねる様な場合は、「ギャラはとっ払いでお願いする」と云っておく必要がある。
 普段のスタジオでは、これが普通なので、あまりこの「とっ払い」と云う言葉は使わない。
 ツアー関係ではとっ払いは滅多に無い。

 もともとは、映画のエキストラ、から来ているのだろう。 つまり、群集や、その他大勢の役を、一般人を募集して使ったりする場合だ。
 オケ関係でトラと云うと、少し意味合いが違ってくる。 編成が大きい曲で、メンバーが足りない時や、誰かが病気とかで休んだ時に頼む、臨時のプレーヤーを指すのだ。
 スタジオ関係でトラ、と云う時は、最初に頼まれていた人が、都合悪くなって、代わりに別の人を来させた場合等に云う。

「今日のフルートはひどかったねぇ」
「いや、急にトラが入っちゃってさぁ、参ったよ」
 と云う様な会話が、時々聞かれる。

 逆に、「今日のトラは、本人より上手だったな〜」等と云われない様にしないと。

 ↑の例文のように、トラを頼む事を、トラを入れる、と云う。

 テレビスタジオの用語だと思う。
 カメリハ(カメラリハーサル)が、カメラを動かしながらやるのに対して、このドライリハーサルは、カメラも動かさず、演技(演奏)もしないで、ただ、カメラワークの手順だけを確認する為のリハーサルだ。

 マルチ録音の場合は、録音する時点では、32チャンネル、或いは64チャンネルなど、多チャンネルで録音する。 それを最終的には2チャンネルの普通のステレオ、或は時によってはモノラルにまとめなければいけないのだが、その作業をトラックダウン、と云う。
 トラックと云って大型の貨物車の事ではない。 最近のようなハードディスク録音は別として、1インチくらいのテープを、陸上競技のトラックのように、細かく分けて録音するのだが、その一つ一つをトラックと云っている。 略して「TD」等ともいいる、また、「ミックスダウン(MD)」と云うのも、同じ作業を指す。 演奏よりも、トラックダウンの方が、時間が掛かる様で、深夜にまで及ぶ事も多く、かなり大変な作業の様だ。
 ちょっと大きなスタジオには、TDルーム、MDルームとか云うのがあって、これはその作業をする部屋だ。 普通は機械的な作業だけだが、小さなブースくらいは有る事もある。

 特にスタジオ用語、と云う訳ではない。 三重奏、三重唱、もしくはその編成の曲のことだ。 。 様々な組み合わせが存在する。 クラシックでピアノトリオと云うと、ピアノ、バイオリン、チェロの編成が一般的だが、ジャズでピアノトリオと云うと、ピアノ、ベース、ドラムが普通だろうか、他にも様々な組み合わせがある。
→ カルテット

 もちろん本来の読み方には無いはずだが、我々は「録る」「撮る」と書いて「とる」と読んだり読ませたりしている。  「録る」は「回す」と同様に録音又は録画する、と云う意味で、「では、一度テストで録ってみます」などと云う風に云う。

 trailer 元は映画の予告編の事だったが、テレビ番組の予告編でもトレーラーと云っているようだ。
 最近使われ始めた言葉かと思ったら、60年以上前のコンサイスにも予告編の意味で載っている、もちろんこの場合は映画のほうだ。

 クリック(別項参照)の別称。
 昔、「ドンカマチック(doncamatic)」と云う商品名のリズムマシーンが有って、それの略称が定着したものの様だ。
 ドンカマを開発したのは、コルグの前身で、その当時、まだ京王技術研究所と云う名前だった会社で、初期のものは接点の付いた円盤が回転する、と云う、アナログなメカであったらしい。
 商品名のドンカマチック(doncamatic)とは、バスドラの「ドン」、クラベスの「カッ」に、オートマチック(automatic)のマチックを付けたものだったそうで、もし区切るとすればドンカ・マチックと成るわけだ。
 詳しくはこちらを参照。
→ ドンカマ登場

→ アコースティック楽器

 この場合の「生」とはギターやピアノを煮たり焼いたりする訳ではなくて、「電気を使わない」、と云う意味だ。 元はアコースティック・・・だろう。 エレキギターではない、フォークギター、ガットギター、ピアノの場合は、普通のピアノの事だ。 最近は、アンプラグド(unplugged)などとも云うが、同じ意味だろう。

 生コマーシャルの事で、最近はあまり無いようだが、「モーニングショー」や「アフタヌーンショー」と云ったいわゆるニュースショーの合間に、実際にスタジオの一角でアナウンサーやタレントさんが、文字通り生でやっていたコマーシャルの事だ。
 ラジオのほうでは生番組が多い関係か、今でも担当のアナウンサーやタレントさんが、この生コマをやっているケースが有る。
 単にVTRが回っているだけのCMに比べると、生身の人間が実物の商品を手にとってやる生コマは、それなりの効果はあるようだ。

 なんとこれはギャラの話だ。 普通、ミュージシャンに支払われるギャラは、源泉徴収で額面の金額から自動的に10%引かれる事になっている。
 例えば、ギャラが10000円の場合は、渡される金額は9000円に成るのだが、これがなんとなく気分が悪い、と云うような事があって、現場で10000円など、切りのいい金額で支払う、と云う習慣がある。
 この場合は、10%を引いた額が10000円なので、元の金額は、約11111円、と云う事になる。 厳密には端数が出るのだが、11111−1111=10000と云うわけだ。
 大抵はこう云う感じで同じ数字が並ぶ事が多いので、現場で10000円を支払う場合は、イチ並び、と云う風に云う。
 要するに0.9で割った数が、その「並び」になるのだが、電卓が普及する前は、この計算が結構面倒だった。

 誰が言い始めたのか、いつ頃始まったのかは不明だが、リピート、ダルセーニョ、ダカーポ、ビスなど、繰り返しの多い楽譜の場合、一切の繰り返し記号を無視して、ただひたすらに楽譜を左から右へと追っていく、と云うやり方で演奏する事があって、これを「のべたん」と云っている、もちろんリハーサルの時に限ってだ。
 要するに時間の節約なのだが、普通に演奏するよりも半分、あるいはそれ以下の時間で、とりあえずは楽譜のチェックが出来る、と云うわけだ。
 わたしがスタジオに出入りするように成った1960年代にはすでに有ったので、結構古くから使われて(行われて)いたのだろう。
 このやり方は、例えば一番括弧からいきなり二番括弧、と云う風に行ったりするわけだから、音楽的にはかなりの違和感を伴うもので、あまりお奨め出来る方法とは云えないが、タイムイズマネーのスタジオ業務では、避けて通れない部分も有るようだ。

 昔、コマーシャルの録音を沢山やっていた時代には、この「ノンモン」と云う言葉を、それこそ耳にタコが出来るほどよく耳にしたものだった。
 テレビなどでCMが流れる場合、前後の本編の番組や、あるいは他のCMとの間に、一定の無音の時間を入れる事に成っている。 これを入れないで、いきなり前の音に続いて次の音が出てくると、聞いている方には違和感を与える事になる。
 そのために、CMの前後には、20コマだかの無音の部分を入れる事になっていて、これをノンモンと云うのだが、このノンモンはどういう意味なのか、なんの略なのか、と云うと、不覚にして最近まで知らなかった。
 で、このノンモンと云うのは、元はと云えば、映画の用語なのだそうだ。
 昔の映画の35ミリフィルムには、右側にサウンドトラックと呼ばれる、音声の為の細いスペースがあって、音は細長いギザギザの紋様となって現像されていた。 音声を映像に変調(モジュレーション)していた、と云うわけだ。 まったく音が入らない場合、モジュレーションはただの一本の直線となって現れる。 これがそのノンモンなのだ。 ノンモンとは、non‐modulationの略であった。

 特にスタジオ用語、と云う訳ではない。
 場当たり的、と云うと、なにかネガティブなニュアンスが強いが、この場合に限り、そうではない。
 主に演劇関係で使われる言葉だと思われるが、お芝居では、いつどこで何をどうするか、俳優さんだけではなく、照明、音響、大道具、小道具なども、当然すべてが決まっている。
 これらのきっかけの確認、俳優の立ち位置、道具を含む出ハケなどを、本番と同じような状況で確認する稽古を「場当たり」と云う。
 音楽関係では、コンサートやライブでの椅子の位置、立ち位置、楽器や譜面台、モニターなどの場所を確認するくらいだろうか。

 打楽器の事。 打楽器と云うと、非常に範囲が広いく、その種類も無限大に多い様な面があるが、スタジオでパーカッションと云う場合は、ドラムや和楽器は含まない事が多いく、クラシック・パーカッションラテン・パーカッションエスニック・パーカッション、と云う風に分ける事も有る。 和太鼓やチャンチキなどは、和楽器として、別に扱われる事が多い様だ。

 コンサートや催し物の会場など、マイクやスピーカーを使うところで、「キ〜〜〜ン」とか云うすごいノイズを経験された事のある方は、少なくないと思うが、あれがハウリングだ。
 そうしてそう云う現象が起きるか、と云うと、スピーカーから出た音が、また、マイクに入ってしまう、と云う事が時々起こるのだが、そうすると、その音が増幅されて、またマイクに入って、と云う無限ループになって、ああ云う音に成ってしまうのだ。
 これだけ技術が進歩した時代になっても、このハウリングだけは、中々回避出来ない様で、結構メジャーなスタジオや、ホールなどでも、しばしばハウリングは起こる。 スタジオの場合は、スピーカーよりも、プレーヤーが使っているイヤホンやヘッドフォーンから漏れた音が、マイクに回り込んで、ハウリングに成る事が多い様だ。 イヤホンはともかく、ヘッドフォンを大音量で聞いている場合は、このハウリングで耳に重大なダメージを受けるような事にも成りかねない。
 素人考えでは、ほんの少し、手間とお金をかければ、「ハウリング防止回路」の様なものは、すぐ出来そうに思うのだが、これだけ技術が進歩しているのに未だ改善されないのは、不思議だ。

 ↑ のハウリングから来た造語で、ラ行五段活用の動詞だ。
 「ハウる恐れがあるので、ハンドマイクをスピーカーに近づけないようにしてね〜」と云う風に使う。
 ハウリングが起きる、と云うくらいの意味だろう。

 正しくは(?)日本薄謝協会だ。 今は、そうでもないのだが、昔、NHKのギャラが他の民間の放送局やレコード会社に比べて安かった頃に、Nihon Hakusha Kyoukai 等とふざけて云っていたのが定着したのだろう。 でも、最近のミュージシャンはあまり使わないようだ。
 古いミュージシャンは、NHKの事を「ヤマ」と云っていた。 これは、その昔、放送局が愛宕山に在った事から来ている様だが、最近ではほとんど通じない。

 エジソンが初めて録音したのは、蝋管だったと思うが、テープレコーダーが発明されて以来、磁気テープに録音する時代はかなり長く続いた。 それが、いまや(2009年)プロのスタジオの現場では、すっかりハードディスク録音にとって変わられて、テープが回っている光景は滅多に見ることも出来なく成ってしまった。
 ビデオの録画が、ハードディスクやDVDに成りつつある訳だから、録音がそうなっても不思議は無いのだが、録音と云えばテープ、と云うイメージが染みついていたから、なんとなく意外な感じがする。
 ハードディスク録音のメリットは、編集がより高度に出来る、頭出しが瞬時に出来る、などだろうか。 デメリットとしては、ハード、ソフトとも高価、トラぶると、データを一瞬で失う可能性が有る、などだろう。

 バスクラリネットの事だ。  バスが付く楽器は他にもいくつかあるが、こう云う略し方をするのはバスクラだけだ。
 普通のクラリネットのオクターブ下が出る楽器で、マウスピースに近い部分や朝顔の部分は金属製で曲がっている。
 基本的にはクラリネットの倍のサイズだが、さらに下の音がでるように、管を長くしてキーを追加した楽器も有る。

 バスクラ同様、よく有る四文字略語で、バスドラムの事だ。
 ジャズやポップス音楽で使うドラムセットは、スネアドラム、シンバル類、大小数個のタム、そしてこのバスドラムから成っている。 バスドラムは足でペダルを踏んで叩くようになっている。

 主にテレビスタジオやステージ関係で使われる用語だが、立ち位置とか、譜面台の位置などを決めると、目印に小さく切ったビニールテープを十文字に張る、と云う事は、普通によく行われている。
 で、そのテープを張る事を、バミる、と云う風に云っている様だ。 語源、その他、不明で、「場見る」とかから来ているのではないのか、と勝手に想像していたが、結構それが正しかったようだ。
 思ったより古くから使われている様にも思えるので、元は芝居関係の言葉だったのかも知れない。
「位置が決まったらバミっといてね〜」と云う風に云っている。
 「場見る」だとすると、「見る」は上二段活用のはずだが、このバミるはラ行5段活用と云うのも面白い。

 音楽の世界では広く使われていて、特にスタジオ用語、と云うわけではない。
 ハモとはハーモニーのハモで、↑の「バミる」と同様、こう云うカタカナ言葉プラス「る」で作る、ラ行5段活用の動詞の一つである。
 メロディーの下、もしくは上に、別のメロディーを付ける事をハモると云う。 この場合はメロディーと平行して「ハモる」わけで、メロディーとは独立して動く対旋律を付ける場合は「オブリガート」なので、ハモるとは云わない。
 また、和音が気持ちよく響く事を、よくハモる、と云う事もある。 逆に、音程やバランスがおかしくて、よく響かないときには「そこんとこ、なんかハモらないね〜」などと云う。
 「ハモり」と、連用形を名詞的に使ったり、もっと略して「ハモ」とも云う。
 ダビングする時など、「メロディーのパートはOKです〜、ではハモり(ハモ)のほう、お願いしま〜す」と云う風に云ったりする。

 スタジオ用語、と云うわけではない。
 アメリカのハモンド社製のオルガンで、日本で使われる様になったのは、戦後だと思うが、実際にはもっと早くから存在したはずだ。
 この楽器を早くから取り上げて使っておられたのは、故、古関裕児さんだった。 戦後間もなく放送されていた、「鐘の鳴る丘」「君の名は」などと云うラジオドラマで、よくこのハモンドオルガンの音が流れていて、当時は大変耳新しく新鮮に感じられたものだった。
 ハモンドオルガンを置いているスタジオも、少なくなってしまった。
→ ハモンドオルガン

 磁気テープで録音していた時でも、録音されたある部分を別の部分に持ってくる、と云う事は出来なくは無かったが、かなり面倒な作業であったと思われる。
 それが、コンピュータを使ってハードディスクに録音するように成ってからは、ワープロのカットアンドペーストと同じように、自由に出来るように成った。
 これによって、例えば、何度かやって、やっと出来るか出来ない、と云うような極端に難しいフレーズが何度も出てくる場合、一度成功したらそれを他の部分にもコピーする、と云う事で、時間と労力をかなり省く事が出来る。 このコピーアンドペーストの作業を「貼る」と云っている。 「paste」と云う英語にかなり近いと云える。
 「貼る」以外にも、間違って飛び出したりした場合でも、その部分だけ消去する事も、簡単にできる。
 曲の中には、全く同じフレーズが何度か出てくる事はよくある。 もちろん、出てくる度に微妙に演奏のニュアンスが変わるので、普通はそんな事はしない。 あくまでも非常手段である。
 録音現場だけではなくて、コンピュータで作曲、編曲をする場合でも、こうして「貼る」事で、かなりの時間と労力が節約されているはずだ。

 番組宣伝のことで、テレビやラジオで番組の合間や途中にCMのように挿入される。 さすがに自局の番組だけだが、普通のCMには無いような、極端に短いものも有るようだ。
 そう云うCM的なものではなくて、中には30分から一時間近くもかけて、それ自体を一つの番組として、自局の番組を紹介しているケースもある。

 映画のフィルムに音楽やセリフなどをダビングをする際に、出だしの場所がわかる様に、フィルムに印を付けるのだが、音が出る1秒、つまり24コマ前、あるいは、更にもう24コマ前などに、フィルムに孔を空ける事がよくあった。
 この孔をパンチと云っていた。 今では、ビデオやデジタル映像に成って、スタジオでフィルムを掛ける事もなくなったので、このパンチにお目にかかる事も無くなってしまった。

 一度録音したものを直す場合に、あるパートだけを差し替える事が、よく有るが、差し替える場合は、数小節前からプレイバックしながら、その箇所の直前に録音ボタンを押す事になる。
 このタイミングが結構微妙で、早過ぎても遅すぎても、せっかく録音したものを消してしまう事になるので、スタジオのアシスタントさんのウデの見せ所でもある。
 その録音ボタンを押す事のが「パンチイン」、解除するほうが「パンチアウト」だ。
 ミュージシャンの、どの部分を差し替えたい、例えば「Aの5小節前の4拍目からAの2小節目の3拍目までお願いしま〜す」などと云うのを瞬時に理解して、適切なところからプレイバックし、更にこのパンチイン、パンチアウトがちゃんと出来ないと、スタジオの進行がうまく行かない。
 スタジオのアシスタントさんは、その為には、楽譜を読める事が必須で、タイミングをとる為には、リズム感も良くないと出来ないと思う。
→ 差し替え

 マーチやワルツなどの、前奏や間奏からメロディーに入る直前に、「ブンチャ・ブンチャ」と云う感じの、リズムだけの部分がよく有るが、あれがバンプ(Vamp)だ。
 多分に擬声語的な感じがするが、真偽の程は定かではない。
 CMなどで、時間が1、2秒足りない、と云うような時に「じゃあ、頭にバンプを2小節入れま〜す」などと、時間調整によく使っていたものだった。

 民放各社で、午後1時〜2時くらいの時間帯にやっている、ご婦人向け(?)のドラマの事を指し、この場合のメロとはメロドラマの事だ。
 昔はこの時間帯のドラマを「よろめきドラマ」と云っていたが、これは女性が浮気をする(よろめく)ような内容のものが多かったからだ。 「よろめき」とは、三島由紀夫の「美徳のよろめき」から来ている。
 英語で、この種の番組を Soap Oper と云うらしいだが、海の向こうにもやはり同じような番組があって、何故かそのスポンサーが石鹸会社だったところから、そう云う言い方をするようになったのだそうだ。
→ 朝ドラ
→ 帯ドラマ
 ところで、メロドラマの語源は、ギリシャ語のメロス(音楽の意味)とドラマが合体して出来た言葉で、音楽付きのドラマの事を指していたのだそうだ。 ただし、この場合の音楽は、芝居のほうと対等あるいはそれ以上の重要性を持っていたらしく、今で云う劇伴とは少し違っていたようだ。
 また、昼メロの「メロ」は、ドラマを見ている奥様方がメロメロになってしまう、と云うあたりから付いた名前だ、と云う説もある。
 「よろめきドラマ」と云う言葉が流行った事もあったが、この場合は、ギリシャ語云々と云うよりは、案外こちらの方が当たっているのかも知れない。

 スタジオでフィードバックと云うと、短音もしくは、短いフレーズを、機械的にやまびこのように反復させる事を云うのだが、最近はディレイ、と云うほうが多い。
 例えば、この楽譜だと六連音符の最初の「ミドラ」あるいは「ラミド」を1回だけ演奏すれば、後は機械が「ミドラミドラミドラミドラ・・・」などとやってくれる、と云うわけだ。
 昔は、録音テープを数十センチのループにして回しながら、録音ヘッドと再生ヘッドを通して、録音、再生を繰り返すようにして、フィードバックを付けていたのだが、最近はデジタル処理でやっているので、コンマ何秒、と云う正確なディレイが掛けられるようになり、曲のテンポにぴったり合わせたりも出来るようになった。

 映画やドラマなどの劇伴音楽を作曲する場合に、実際に映像を見ながら、その場面の長さや雰囲気にピッタリと合わせて作曲することを云う。
 一見、当たり前の様な事なのだが、最近のテレビドラマでは、ほとんどが溜め取り方式(別項参照)に成っていて、このフィルムスコアリングが行われているのは、単発の特別番組だけ、と云うのが実情だ(例外的に、毎回フィルムスコアリングで録っていたのは、日テレ系列で火曜日の夜に放映されていた、「火曜サスペンス劇場」で、貴重な存在だったが、それも終わってしまった)。 その為に、劇伴がドラマの劇的な表現を助ける、と云う事がほとんどなくなってしまって、単なるBGMに成り下がってしまった感が有るのは、大変残念な事だ。 最近ではスタジオでフィルムを映写する事は滅多に無くて、ほとんどがビデオ、もしくはコンピュータのデータの映像だろうか。
→ 溜め録り

 スタジオ用語、と云うわけではないが、よく使われる。
 フェイク(fake)とは、辞書によると、「ごまかし」「いんちき」など、ネガティブな意味が有る様だが、俗語表現として「『見かけよく』こさえあげる」と云うのもあって、この場合はこれに近いと思う。 ジャズやポップスでは、特にソロの場合は、楽譜通りに演奏したのでは、全くサマに成らない事が多いし、楽譜も、適度なフェイクを前提として書かれている事の方が多い。 そう云うのが得意でないプレーヤーが来ると分かっている場合は、アレンジャーが、それらしく書いてしまう事もある。 普通は、あまり細部に渡って楽譜に書かない方が、やりやすいものだ。

 以前はボリュームその他の調整は、丸いつまみを回す事で行われていたが、有る時期から、それは上下にスライドさせる形に変わっていった。 この上下式の利点は、ボリューム、音質等の状態が視覚的にとらえられる点で、丸いつまみは、急速に姿を消していった。 フェ−ダーと云うのは、この上下スライド式のスイッチ(?)の事なのだ。

 元は、画面を徐々に暗くしていって、ついには完全に暗黒に到ると云う、映画の手法だったと思われる。 録音スタジオでフェードアウトと云う場合は、エンディングを音楽的にはっきり決めるのではなくて、徐々にボリュームを絞りこんでいく、と云う手法だ。
 よく有るのは、エンディングで、本編がほぼ終わった段階で、8小節、6小節と云う、決まったパターンを繰り返すうちに、絞り込んで行く、と云う方法だ。 演奏は、特に意識しないでやっている内に、機械的に絞り込んでいく事が多い。

 上記のフェードアウトの逆で、完全に絞り込んだ、つまり無音の状態から、徐々にフェーダーを上げていく事を云う。 fade と云う元の意味から考えると、奇妙な感じがするのだが、国内の現場では普通に使われている。
 同じ様な意味で、スネークインとよく云う事がある。 蛇の様に、す〜っと入っていく、と云う様な連想から云っているのではないかと思うが(snake in ?)、多分、sneak in が訛ったのだろう。

 フォーリズムと云うと、ドラムス、ベース、ギター、ピアノ、の、普通リズム隊、リズムセクションなどと呼ばれる4つの楽器を指す事になっている。 これに、ラテン・パーカッションや、もうひとつギターが加わって、ファイブリズムなどとも云うが、それ以上は云わない様だ。 リズム隊、参照

 演劇やテレビの世界では、あらぬタイミングで笑ってしまうことを「吹く」と云うが、この場合はそれではない。
 マイクと云うのは大変デリケートなものだが、特に風に弱い面がある。 歌い手さんなどがオンマイクで歌っている場合、マイクに直接息がかかると、かなりのノイズが出るが、それを「吹く」と云っている。
 戸外に居る相手と携帯で話している時など、風のノイズで聞こえなくなってしまう事がよくあるが、あれに近いと思えばいいだろう。
 マイクに直径15センチくらいの丸いスクリーンが付けてある事があるが、あれはマイクを吹かないためである。 ボーカルのマイクに、丸いスポンジが被せてある事があるが、あれも同じ目的である。

 スタジオは大きく二つの部分に分かれている。
 一つは、演技、演奏などをする比較的広いスペース、もう一つは音を調整したりバランスを取ったりする部屋だ。 その、音の調整などをする部屋のことを「副調室」、「副調」と云っている。 多分、副調整室の略だろう。 で、二つのスペースは、大きなガラス(音が漏れない様に2重に成っている)で隔てられているところから、金魚鉢、などと呼ぶ様に成った様だ。 最近ではコントロールルームと云う方が多い。
 ところで、副調整室がある以上、主調整室もあるわけだが、主調整室のほうは我々ミュージシャンにはほとんど関係無いと云ってもいいだろう。
 そもそもこれらはいずれも放送局の用語、設備であったのだ。 副調整室はそれぞれのスタジオに有る、文字通りの調整室だが、主調整室のほうは、放送局の各セクションから送られてくるもの、あるいは録音録画したものを、最終的に送信所に送り出すための作業を司るセクションで、いわば放送局の心臓部といっても良いだろう。
 したがって、放送局以外のレコード会社や、その他の貸しスタジオには、主調整室は存在しないので、副調整室、副調と云うのはおかしい。
 クーデターが起きた場合など、反乱軍がまず占拠しようとするのが放送局である。 その放送局の心臓部である主調整室は、かなり厳重にガードされているのだと思われる。

 元は「小屋」とか「屋台」、と云う様な意味らしいだが、スタジオで云うブースは、少し意味合いが違う。 同じスタジオの中でも、メインのフロアとは別に、区切られた小さい部屋、と云う感じだろうか。 普通は真ん中の広いスペースに弦楽器のセクションが居て、それ以外の楽器は、それぞれのブースに入っている事が多い。
 同じ部屋にフルートや生ギターの様な、音の小さい楽器と、トランペットやトロンボーンなどの大きな音の楽器が居たりすると、フルートのマイクにもトランペットの音が入ってしまって、フルートの音がほとんど取れない、と云う事に成ってしまう。 それを避ける為に、ブースで区切って隔離する訳だ。 で、お互いの音が聞き合えないと演奏が出来ないし、意思の疎通も出来ないので、イヤフォーンやヘッドフォーンを使う。 スタジオの仕事ではイヤフォーンの類は必須に成っている。

 スタジオ用語、と云うわけではない。
 舞台監督の略だが、ステージマネジャーとか云うより、こちらの方がゴロが面白いので、よく使われる。
 仕事の性質上か、声の大きい人が多いように思う。

→ 本番

 録音スタジオも色々有って、テレビ局や放送局のスタジオ、レコード会社のスタジオ、何処にも所属していない、レンタルスタジオ等だが、それ以外にも、最近、大変増えているのが、作曲家やプロダクションが自分達の仕事をする為に持っているプライベートスタジオだ。 中にはかなり本格的なスタジオもあるが、プライベートスタジオと云う場合は、マンションの一室でやっている様な小規模なスタジオが多い。 主に、打ち込みや電気楽器のダビング、トラックダウンなどをメインにやっている事が多い。 生楽器用のブースを備えているところも有るが、ほとんど例外無く、おそろしく狭くって、さながらトイレか公衆電話のようなブースでやらされる事が多い。

委託版CD、参照

 ブラスとは、brass で、真鍮の事だが、音楽関係では、brass instrument、 つまり金管楽器の事を指す。 まあ、必ずしも真鍮製とは限らないのだが、金属で出来たフルートも木管楽器、と云うのと同じ様なものだろう。 だから、普通はブラス、つまり金管楽器と言えば、トランペット、トロンボーン、ホルン、チューバを指すのだが、スタジオ関係でブラスと云うと、トランペットとトロンボーン、チューバ(もし編成に入っていれば)を指す事が多く、何故かホルンは別に成っている。
 ジャズバンドなどで、ブラス、と云うとトランペットとトロンボーンなので、その辺りから来ているのか、あるいは、録音する際のブースの都合などで、ホルンが別に成っているからなのかも知れない。
 ブラスセクション、ブラス隊などとも云う。 この「隊」が付くのは、リズム隊とこのブラス隊くらいで、ストリング隊、木管隊などとは云わない。

 この場合の「フリー」は、時間の制限が無い、云う意味になる。
 最近のコマーシャルの音楽は、適当にBGM風に流して、曲の途中で平気で切ったりしているが、昔は、必ずその時間内、つまり60秒、30秒、etc 内で完結する様に成っていて、決められた時間内にまとめる、と云うことで、作曲家さん達は、色々苦労していた。
 それに対して、店頭で流すなどの目的で、時間に関係なく、普通の曲の様に、2、3分の長さのモノを録る事があって、それをフリーサイズと云っていた。

→ サビ

 プリプロダクション(Pre-production)の略。 つまり、コマーシャルなどの制作段階で、本番の録音に先立って、作曲家やアレンジャーが、仮に作ったものをスポンサーやディレクタなどに聞いてもらうために作ったものを云うようだ。
 プリプロの作り方は、ケースバイケースで、完成品に近いモノを作る事もあれば、ピアノやギターに歌が入っただけのものもある。
 最近は、作曲家が自分で打ち込みで作ったものを使う事が多いようだが、そのプリプロのために、本番通りとは行かなくても、ちゃんとミュージシャンを集めて録音する事も有る。
 以前は、「オーディション」と云っていた。
 本来は、映画などの製作で、撮影に入る前の準備段階の作業をプリプロと云っているようだ。

 歌を全曲、と云う事だろうか。 この場合のコーラスは、別項にもあるが、歌の1番、2番の「番」に当たる。 フル編成のオケにある「コーラス」とは意味合いが違う。 フルコーラスと云う事は、省略無しの全曲、と云う事に成る。
 ワンコーラス参照

 テレビサイズ参照

 スタジオ用語、と云うわけではない。
 大編成のジャズバンドの標準、のようなもので、普通は、ドラムス、ベース、ピアノ、ギターのリズムセクションに、トランペット4、トロンボーン4、サックス5、くらいだろうか。 サックスは、アルト2、テナー2、バリトン1が標準だが、ソプラノサックス、クラリネット、フルートなどに持ち替える事もある。

 オケは、もちろんオーケストラの事だが、スタジオ関係でフル編成と云っても、普通のオーケストラの場合とはかなり違う。
 特に基準が有る訳ではないが、普通、弦が86442(別項参照)以上、ブラスがトランペット、トロンボーンが各3もしくは4人、ホルンが4人、木管はフルート、オーボエ、クラリネット、ファゴットが、少なくとも各1人以上、ラテン・パーカッション、クラシック・パーカッション、各若干名、ハープにリズム隊(別項参照)、と云う感じだろうか。 昔だと、サックス隊(アルト2、テナー2、バリトン)が加わっていたのだが、最近はサックスはソロでは入っても、セクションとして入る事は少ない様だ。
 ちなみに、スタジオでは、たとえ4、5人の編成であっても、「オケ」と云う風に云っている、ただし、「オーケストラ」とは云わない様だ。 同様に、2、3人でもコーラスと云う事が多いだ。

 特にスタジオ用語と云う訳ではない。 要するにフレーズの区切り方、と云う事で、歌詞の付いているメロディーだと、その歌詞の意味によって、おのずと区切る場所は決まってくるし、元もと歌詞の付いていたメロディーを楽器でやる場合なども、それを参考にしてフレーズを区切る事が出来る。
 ただ、全くの器楽曲の場合は、解釈によって、何通りもの区切り方が考えられる事は、よくある。
 楽器によっても、事情は違ってくる事は考えられる。 管楽器は息の続く時間に限りがあるので、嫌でもフレージングを考えなくてはいけないし、バイオリンなどの弦楽器の場合も、ボーイングの都合で、区切り方が変わってくるはずだ。
 逆に云えば、管楽器や弦楽器の方が、フレージングに敏感だと云えるかも知れない。 息をしなくても良い楽器の奏者は、ともすれば、全く区切り目の無い演奏をしてしまう事があって、これは聞いている方が、息がつまりそうになってしまう。
 楽譜上は休止符が無くても、また、いくら息が続いても、適切な個所での切れ目を入れる、と云う事も必要なのだ。

 録音、録画したものを再生するのが、プレイバックだ。 普通、歌モノの録音の現場では、譜面のチェックを兼ねて、2、3度演奏した後、テスト録音をして、プレイバックして、色々検討をする。 その後、本番の録音をして、OKが出たら、最後に確認を兼ねて、再度プレイバックする。
 もっとも、時間に追われる劇伴の場合は、よほどの事が無い限り、プレイバックはせいぜい最初の一曲目だけで、それ以外は省略する事が多い。

 ちょっと大きい目のスタジオでは、ブースがいくつか有って、その真ん中に主にストリングセクションが入る、広いスペースがあるのだが、それを「フロア」と云う風に云っている。
 もちろん、編成によっては、弦以外のセクションが使う事もあって、一般に、ブースに入れられるよりは響きがずっと良いので、特に管楽器などは、フロアでやった方が気持ち良く演奏出来る。

 スタジオで、ハードディスクレコーディングと云う言葉を耳にする様になってから、まだ数年しか経っていないと思う。 専門外なので、イマイチ分かっていないところも有るのだが、「プロトゥールス」と云うのは、そのハードディスクレコーディングの為の、ハード、ソフトを含めたシステム、と云うところだろうか。
 数百万もするプロ仕様のものから、十万円以下でも、一応使えるものが有って、その小さいシステムで作ったデータでもプロ仕様のシステムでちゃんと使えるらしい。
 英語的には「プロトゥルズ」と云うほうが正しいのだろう。

 和製英語らしい。
 元はミュージシャンのアルバムなどを宣伝する目的で作られたビデオを指すものだったようだが、後にはその宣伝用のビデオ自体が作品として一人歩きするようにもなったようだ。
 それとは別に、企業プロモーションビデオを指す事もあり、この場合は企業のPR用に作られたビデオである。
 略してPVとも云う。

 昔、オペラを見に行くと、ステージの真ん中の客席に一番近いところにこんもり盛り上がった小屋みたいなものが有った。 今ではそんなものは無いと思うが、その小屋状の物には歌い手さんに歌詞やセリフを教えてあげるプロンプターと呼ばれる人が入っていた。 ちょっと静かなシーンになると、客席でもプロンプターの声が聞こえたものだったが、云わば暗黙の了解みたいなもので、気にする人は居なかった。
 普通の芝居でもプロンプターは居るようだが、そんな小屋みたいなものは無くて、多分、幕の内側とか舞台の袖から囁いているのだろう。
 で、ちょっと前までは、テレビスタジオだとカメラの向こう側、ステージだと客席の一番前などに、大きな紙に歌詞やセリフを書いたカンペと呼ばれるものをADさん達が広げて持っていたものだが、最近はカンペもハイテクになって、舞台の真ん中に、客席からは目立たないが、モニターと云うかディスプレイが置いてある。 そこに歌詞やセリフなどが表示されるように成っていて、このディスプレイをプロンプターと云っている。
 オバマ大統領の名演説も、実は演台の内側にこのプロンプターが有ったらしい。 目線が客席に向いているのとあまり変わらないので、原稿を読んでいる風には見えないわけだ。
 元になる原稿はスキャナのようなもので読み込んでいくのだから、その係りの人は演説や歌の進行に合わせて原稿を送っていかないといけない。 これを間違ったら大変な事に成るから、責任は重大だ。

 「ベッチャン」と発音する。 もちろん、別チャンネルの事だ。
 前に録ったものを一部、あるいは全部修正する場合に、前のテイクを差し替え、つまり上書きするのではなく、キープして別のトラックに録ってほしい時などに、「別チャンにお願いしま〜す」と云う風に云う。 後でどちらかを選びたい場合や、非常に難しいフレーズで、やり直した場合に、前よりもうまく行くかどうか、自信が無いけれど、とりあえず挑戦してみる、と云うような場合、この別チャンに録ってもらう。
 また、ハモりのパートをダビングする場合などにも「メロのパートはOKです、次は、別チャンお願いしま〜す」などとも云う、

 Head Arrange と云うのが、英語なのか、和製英語なのか、不覚にして定かでないのだが、ヘッドをアレンジするのではなくて、ヘッドでアレンジする事だ。 つまり、普通、アレンジと云うのは、楽譜に書くのが普通と云うか、当たり前だが、ジャズやポップスの分野では、逐一譜面に書かずに、コードネームなどを書いた大まかなメモのようなものを全員に配って、リーダーの指示や、皆で話し合いながら、曲を作り上げていく事が、よく有る。 この、楽譜にあまり依存しないアレンジの事をヘッドアレンジ、と云う。
 劇伴の分野で、ヘッドアレンジを実践しておられたのは、故山本直純さんだろうか。 直純さんの仕事に行くと、完成された楽譜は少なくて、Cメロと云われる、メロディーにコードネームを振った楽譜しか無い事が多かっただ。 ドラマのシーンに合わせて、このCメロを元に、口頭で諸々の指示を出して演奏させる、と云うスタイルなので、馴れない新人がトラで行ったりすると、結構マゴついたものだ。 トランペット、クラリネット、サックスなどの移調楽器も、このCメロでやらされる事が多いので、馴れていないとなおさら大変だ。

 文字通りだが、なんらかの理由で、同時に録らないで別に録音する事を云う。
 その理由とは、楽譜のめくりが間に合わない、持ち替えが間に合わない、フレーズが難しすぎて一緒には出来ない場合、など、色々ある。

 録音テープを使っていて、マルチトラックでなかった時代は、なにか一部分にNGがあると、その部分だけを別に録って、あとでテープをつなぐ、と云うような事を、よくやっていたのだが、その作業を編集、と云っていた。
 カミソリの刃などで、テープを斜めに切って専用の粘着テープでつなぐのだが、これが中々熟練を要する手作業で、エンジニアさんでも、編集の得手不得手があったようだ。
 最近は、ほとんどがハードディスクに録音するようになったので、編集作業は、ワープロのカットアンドペーストに近い感じで出来るように成っている。

 「棒が見えない」などと云うときは所謂「指揮棒」のことを指しているのだが、指揮者自身、の意味でも使う。 指揮者の事を「棒振り」などとも云うがもちろん正式の言い方ではない。

 ラジオドラマと云う言葉はテレビが始まる前には無かったはずで、「放送劇」と云うのが普通だった。
 他に娯楽が少なかったから、当時のラジオ、特に放送劇の人気は絶大なものがあった。
 戦後間もなく始まった「鐘の鳴る丘」をはじめとして、放送時間になると女湯が空に成ったと云う伝説のある「君の名は」、ウイークデイの夜7時過ぎに毎日放送された「向こう三軒両隣」、同じくウイークディの夕方6時頃に放送されていた子供向けの連続放送劇「新諸国物語」のシリーズ(白鳥の騎士、紅孔雀、笛吹童子)、などなど、枚挙にいとまが無い。
 ラジオドラマの場合は、聴覚だけで視聴者のイマジネーションに訴えかけるわけだから、セリフやナレーションはもちろん、音楽や効果音などの占めるウエイトはテレビとは比べもにならないくらい大きいと思われる。
 当時の放送劇のテーマ音楽、主題歌など、半世紀以上経ったいまでもしっかり覚えている。

 元々は芝居などの舞台の言葉ではないか、と云う気がするが、リハーサルに対して、実際にお客さんの前での公演が本番だ。
 スタジオ関係では、実際に録音もしくは録画する事を本番と云う。 録音しなくても、ナマでオンエアーする場合ももちろん本番で、どちらかと云えば、この方が先だったのだろう。
 普通は何度かリハーサルをして、うたものの場合はテスト録音を経て本番に入るのだが、劇伴で時間が押してきた時など、リハーサル無しでいきなり録音してしまう事も有って、その場合は「ぶっつけ本番」などと云う。 テスト録音の時に、「テスト本番」と云う事があって、この場合は、一応はテストだけど、うまく行けば、本番として採用する、と云う意味だ。

 これは、テスト本番と紛らわしいが、別ものだ。 映画の全盛時代には、各映画会社が、敷地内に広いダビングルームを持っていて、そこで音楽のダビングをやっていたのだが、初期の頃は、テープに録音する、と云う事がまだなくて、直接フィルムに焼き付ける、と云う事をやっていた。 と云う事は、もし演奏にミスがあったりすると、その部分のフィルムが、お釈迦に成ってしまう、と云う事なので、本番に至るまでには入念なリハーサルをして、最後に、まったく本番と同じ感じでテストをする事に成っていた、これが「本番テスト」なのだ。 略して「本テス」などと云っていた様だ。
 磁気テープに録音出来る様になってからは、あまり使われなく成ったのだが、わたしがスタジオに入った頃には、まだ古い人が結構居られたので、「は〜い、では次、本テス行きま〜す」等と云う声が聞けたものだ。
 テスト本番と紛らわしいのだが、テスト本番の場合は、うまくいったらそのまま本番として採用する、と云う事なので、テープが回っているのだが、本番テストは、あくまでもテストなので、テープは回っていない。

 録音が始まる前に、マイクのチェックをする。 ただ線がつながっているかどうかを確認するだけなら、マイクをゴリゴリこするだけでも良いのだが、音量、音質なども決めなければいけないので、各楽器後とに、音を出してもらって、バランスなどを決める。
 マイクロフォンと云うのは、非常に微妙なものの様で、こう云うテストが必須のようだ。 あと、マイクだけではなくて、コードの具合が悪くてノイズが出る事もあるので、その辺りもチェックする。 コードと云っても我々に見えているのは、マイクからスタジオの壁までで、その先は、壁のジャックからは壁の中や床下を通って、コントロールルームまで行って、そこからまた別のコードでコンソールに行き、さらにレコーダーに…、と云う風に、色んな段階があるので、もしつながらなかったりノイズが出たりすると、どこが原因かを見つけるのが、結構大変だったりする。
 ベテランのエンジニアさんで、馴れたスタジオ、気心のしれたミュージシャンだと、マイクチェックを省略する事もある。 この場合でも、一々個別に音をもらわなくても、開始前に皆が勝手に音をだしている時に、適当にチェックしている事が多い様だ。
 コンサート会場でも、リハーサルの前にマイク・チェックをする。
 多分、ミュージシャンが入る前にマイク自体のチェックは済ませて有るはずなので、我々が音を出すのはサウンド・チェックと云っているようだ。 これは主にPA用のチェックだが、スタジオの場合よりは念入りに行っているように見える。
 一発勝負でやり直しが利かないと云う事と、会場によって音響の条件が全く違う、などの理由も有るのかも知れない。

 特にスタジオ用語と云う訳ではない。
 演奏旅行等の場合、当日出発しても時間的には間に合う場合に、前の日に現地に入る事を云う。
 主催者側で前乗りのスケジュールを組む事もあるが、そうでない場合に、個人的な希望で前乗りする事も有る。 この場合はその分は個人負担に成るのだが、うまくすると出してもらえる事もある。

 ダビングをする時など、人によって、全体的に少しづつ元のリズムよりも遅れる人が居る。 そう云う場合に、「すみません、もう少し前乗りでお願いする」などと云う。
 オーケストラの場合などは、パートによっては、10メーター以上離れている事もあって、聞こえてくる音は、常に何分の一秒か遅れて来るので、そのまま合わせて演奏したのでは、その分遅れてしまう。 そのため、無意識的、経験的、習慣的にこの前乗りをやっているはずだ。 また、逆に云えば、この距離による微妙なズレが、オーケストラ特有の音色として現れている、と云えなくもない。
 極端な前乗りを強いられたのは、スタジオでイヤフォンやヘッドフォンを使う様に成る前で、これはかなり辛いものが有った。

 特にスタジオ用語と云う訳ではない。 マカロニウエスタンとはイタリー製の西部劇の事で、一時期かなりの作品が発表されていた様だ。 元はイタリー語を話している筈なのだが、吹き替え版を見ると、同じように見える西洋人がやっているので、本物(?)とあまり区別が付かない。
 でも、音楽を聞くと、当然ながらイタリー製の劇伴なので、本場の西部劇の音楽とは、なんとなく感じが違うので分かってしまったりするかも知れない。 「おっちゃんの仕事場探検1」にある「RED DEAD REVOLVER」の中での「マカロニウェスタン風」と云う記載は、 多分そんな意味での「マカロニウエスタン風」なのだと思う。
 もし、日本で西部劇を撮ったら、ザルソバ・ウエスタンとでも云うのだろうか?

 録音や録画で、時間が掛かりすぎて延びそうになってきた場合に、なるべく進行が早くなる様に急きたてる事を、巻く、と云う。 本番中など、声を出せない場合は、手をくるくる回す合図が昔から使われてきたのだが、巻く、と云うのは、そのあたりから来ているのではないかと思っている。 時間が押してきて、急がなければならない場合など、「巻きで行きますからね〜」とか「巻きが入ってますので、宜しく〜」などと云う。 その「巻き」が入っている場合は、些細なミスなどは無視して先に行ってしまう様な事もある。
 「巻く」と云うのは普通は他動詞として使われるが、この場合は自動詞的に使われる。

 最近は重要な録音は、ほとんどハードディスク録音に成ってしまった様なので、ちょっと時事情が違ってくるが、テープレコーダーで録音していた頃は、レコード盤やCDに成った製品とは別に、元のテープは別途、会社で保存していた。
 その大もとのテープがマスターテープだ。 レコードやCDをリメイクする場合など、製品化されたものから複製するよりは、そのマスターテープから作った方が、当然ながらずっと音質は良いわけだ。
 でも、テープを使った録音も、ほとんど無くなってしまった訳で、その内にこの言葉も死語に成ってしまうかもしれない。

 歌もののレコーディングなどの時に使う楽譜で、メロディー、ベースライン、コードネーム、リズムパターン、オブリガートなどを、五線紙を三段くらい使って書いたものがあるのだが、それをマスターリズムと云っている。
 普通、リズム隊や、シンセ、パーカッションなどの奏者が使うのだが、時として、われわれ木管楽器などでも、このマスターリズムの譜面でやる事がある。
 マスターリズムの便利なのは、自分のパートだけではなくて、曲の全体が一応把握出来る、一部作れば、後はコピーで済ませられる、というメリットが有るのだが、反面、色んな事が所狭しと書かれているので、若干見難い、と云う事がある。
 ステージの演奏でも、特に小編成の場合は、このマスターリズムを使うことが多い。
→ マスターリズムの楽譜

 あまり詳しくないのだが、スタジオでマルチで録音したものを、トラックダウンで2チャンネルのステレオに落とすのだが、さらにそれを、実際にCDに焼く作業を、マスタリング、と云っている様だ。
 実は、このマスタリングと云う作業がかなり重要で、これの出来、不出来が、CDの音を大きく左右するのだそうだ。

 単にマルチ、と云っても、意味を為さないのだが、スタジオでマルチと云う場合は、↓の「マルチ録音」を指す場合と、そのマルチ録音に使うテープ、もしくは、最近だとハードディスクを指す事が有る。

 最近でこそ、ほとんどがステレオに成っているが、初期の録音は、すべてモノラルだった。
 20年くらい前からだろうか、各々のパート毎に別々に録音出来る様になり、それを、マルチ録音、と云うようになった。 場合によるが、32チャンネル、64チャンネル、或いはそれ以上の多チャンネルの事もある。

 最近では少なくなったが、「今日はマルチが回ってないから、差し替えは出来ないよ〜」、などと云っていた。

 スタジオで回すと云えば「録音(録画)する」、「本番を録る」と云う意味だ。
 テープレコーダーやカメラが回っているイメージから云うように成ったのだろうが、テレコを使わなく成っても、言葉はまだ残っている。
 厳密に云えば、ハードディスクが高速回転しているわけだから、やはり「回す」なのかも知れないが。
 回っているのは同じでも、プレイバックの場合は、回すと云わないのは不思議だ。

 ある楽器のマイクに他の楽器の音が入ってしまう事を云う。 この回りこみが起き易いのは、フルート等の比較的音の小さい楽器の近くに、ブラスや打楽器など、大きな音の楽器が居る場合で、フルートのマイクに、他の楽器の音の方が大きく入ってしまう事が多いのだ。 気にならない範囲なら良いのだが、本来のマイクでなくて、他のマイクから入った音は、音がクリアでないので、特にエンジニアさんは、この回り込みには神経質に成る様だ。 スタジオで、衝立やブースが多いのは、この回りこみを避ける為だ。
 ライブ録音の場合など、どうしても避けきれない事も有るのだが、それはそれで、かえってライブらしいサウンドに成る、と云う事も云えるかも知れない。

 回り込みのもう一つのケースは、クリック音の回り込みで、これはプレーヤーが使っているヘッドフォンやイヤホンから漏れた音が、マイクに入ってしまう訳だ。 本来、聞こえてはいけない音なので、エンジニアさん達は、このクリックの回り込みには、大変気を遣っている。

 作曲家やアレンジャー、あるいは会社やグループのスタジオで、普通のマンションの一室を使ってスタジオにしたものが、結構多く成ってきたが、そう云う小さいスタジオをマンションスタジオ、などと云う事がある。
 打ち込みやトラックダウンなどに使われる事がメインだと思うが、小さなブースを備えているところもあって、そう云うところに呼ばれて行く事もある。
 たいていは初めて行く所なので、事前にファックスで地図などを送ってもらう事が多い。
→ プライベートスタジオ

 特にスタジオ用語と云う訳ではないが、最近の演歌の録音では、欠かせない楽器になっている。 調弦は、下から、GDAEとバイオリンと同じ5度間隔なのだが、復弦、つまりそれぞれが二本づつになっている。 4組の弦を、ピックではじくか、トレモロで弾いて演奏する。 復弦に成っているのは、トレモロがやりやすい、と云う事もあるのでは、と思われる。
 ビバルディの協奏曲なども有って、本来はソロ楽器だが、日本では、それ以外に、マンドリンの合奏を楽しむ事が多いようだ。 特に、大学のマンドリンクラブが多く、その中でも、明治大学のマンドリンクラブは、特に有名だ。
 合奏の場合は、中低音の楽器として、サイズの大きいマンドラ、マンドチェロ、ギター、コントラバス、などが入るのが普通だ。 マンドラはビオラに、マンドチェロはチェロに相当するが、普通は合奏用で、単独で使われる事は少ないようだ。
 スタジオのマンドリン奏者は、マンドリンだけでなくて、バラライカ、ブズーキなど、各種の民族系の楽器を持ち替える事が多い。

 今は「エンジニアさん」と呼ばれることが多いのだが、それまではずっと「ミキサーさん」と呼ばれていた。 「ミキサー」と云うと、どうも料理で使うあの機械を連想してしまうが、実はそうでもないようだ。 ここで云うミキサーは古い辞書には載っていないので、英語としても比較的あたらしい言葉なのだと思う。 料理で使うあれをミキサーと云うのは和製英語で、本当は「blender」とか「liquidizer」とか云うらしい。
 ただ、和製英語にせよ、日本で使われている「ミキサー(料理の素材をかき混ぜる)」と「色んな楽器の音を混ぜ合わせる」と云うような連想から、云い始められたのではないだろうか。
 エンジニアを参照

 トラックダウンと同義と思ってまちがいないだろう。

 特にスタジオ用語と云う訳ではない。
 最近、よく中国の笛、中国的な笛、と云うオーダーがあって、たいていはこの明笛で対応している。
 明笛はミンテキと読むのだが、「明」は、明国の明だ。 清笛(シンテキ)、「南京横笛」などとも云っていたとも云うようだ。 清笛の「清」はもちろん清国の事で、時代が違うだけで、実際は同じ楽器を指しているようだ。 ただし、いずれもこれは日本での呼び方で、中国語では「笛子」と云っているようだ、発音はよく分からないのだが「ディーズ」(di-zi)と云うような感じになるらしい。
 特徴は、歌口と指孔の中間くらいに、共鳴孔があって、ここに張った薄い膜が共鳴して、独特の音色を出す点だ。 本来は竹紙(チクシ)と云う、竹を割った時に、節のところにある薄い膜を共鳴膜として使うらしいだが、竹紙を入手するのは簡単ではないし、結構、微妙で破れやすかったりもするので、わたしは、スーパーで牛乳などを買った時にくれる、極薄のビニール袋を切ったもので代用している。
 詳細は、こちらを参照

 特にスタジオ用語、と云う訳ではない。
 ムラ息と云うのは尺八の奏法の一つである。
 実際の音よりも息の音、もしくはノイズを強調した奏法で、時代劇の劇伴などで、よく使われる。
 ちょっと緊迫した場面などで使われると強烈な効果が出る。

 特にスタジオ用語と云う訳ではない。
 「メリハリを付けて」などとよく云うが、元はと云えば邦楽、それも尺八や篠笛で使われる言葉だろう。
 「メリ」とは、歌口に唇を被せるようにして、あるいは息を弱めるなどして、音をずり下げる事を云い、「ハリ」はその逆で、歌口から唇を離し気味にして強く吹く事を指す。
 その関連で、演奏上の強弱などのニュアンスをはっきり付ける事を、メリハリを付ける、と云うようになったようだ。


 特にスタジオ用語と云う訳ではない。
 水泳のメドレーは、数種類の泳法を次々と続けるが、音楽の場合は、数曲を切れ目無く続けて演奏するようにアレンジして1曲にまとめたものをメドレー(medley)と云う。
 次々と別の歌手が出てきて歌うことも有れば、一人の歌手が歌う事もあり、もちろんインストのメドレーもある。
 普通、メドレーの場合はフルコーラス歌う、あるいは演奏する事は少なく、ワンコーラス、あるいはそれ以下の場合も有りうる。
→ 曲つなぎ

 メロ、と云うのはメロディーなんだが、色んなケースが考えられる。 基本的には、既に録音されているものに、メロディーをダビングする事なのだが、歌の部分を楽器に差し替えるとか、既に入っている楽器を、別の楽器で差し替える、とかだろうか。 もちろん、なんらかの理由でメロディー抜きで録音したものにダビングする場合もある。 「メロ被せ」と云う事もある。
 あまり誉めた事ではないのだが、と云うより、権利関係等の点でも、かなり危ない話なのだが、なにかの歌のアルバムの歌の部分を楽器に差し替えて、インストのアルバムとして発売する、と云う様な事も、無いわけではない。

 スタジオ用語と云うわけではない。
 「もくご」とは「木五」で、木管五重奏の事だ。 木管五重奏とは、フルート、オーボエ、クラリネット、ホルン、ファゴットと云う編成で、何故かホルンが入っているのは、音色と音域を補うためだろう。
 弦楽五重奏を「弦カル」と云うのに似ていて、ゲンカルの方は昔から云っていたが、モクゴと云うようになったのは、比較的最近だと思う。
 多分、クラシック系のミュージシャンにしか通じないだろう。 スタジオで弦カルで演奏するケースは結構あるが、モクゴで演奏する事はかなり少ない。

 ブースによっては、指揮者がよく見えなかったりする事がよくある。 そう云う場合に、テレビのディスプレイの様なものを使って、指揮者を見る事がよく有るのだが、その際のディスプレイをモニターと云っている。
 映画や劇伴の録音では、映像を見ながら演奏する事も多いが、そんな場合は、指揮者がこのモニターを見ながら棒を振る事になる。
 あと、スタジオ録音では必須に成っている、ヘッドフォンやイヤフォンの事もモニターと云う事がある。
 ライブのステージで、自分の音や、他のメンバーの音を聞く為に床に置いてある、「転がし」と呼ばれる黒いスピーカーも、モニターと云う。 同じスピーカーでも、客席側に向いているのは、PAと云う。
→ PA


 キューボックスには、コントロールルームで聞いているのと同じバランスのチャンネルが選択出来るように成っているが、そのコントロールルームと同じバランスをモニターバランスと云う。
 最近はツーミックスと云うほうが多い。

 特にスタジオ用語と云う訳ではない。 元の意味は「一つの音」だが、二つ以上の楽器または声部で同じ音域で同じメロディーを演奏する事を云う。 オクターブ違いで同じ事をやる場合は、オクターブユニゾンと云う。

 スタジオでは、歌もの、特に演歌の場合など、歌い手さんの都合で、いきなり半音上げて、あるいは下げてやってくれ、と云われる事がある。
 移調しながら演奏するのが苦手な人は、自分で書き直したりする事もあるが、最近のスタジオミュージシャンは、そんなことをしないでも即座に出来る人が多い。
 こんな風に楽譜を見ながら別のキーに移調しながら演奏することを読み替えると云う。
 歌ものでなくても作曲家やアレンジャーが移調楽器のキーを間違えて書いてきた場合なども、読み替えながら演奏することがよくある。
→ 移調を参照。

→ 直録りを参照。

 最近のコマーシャルの音楽は、適当にBGM風に流して、曲の途中で平気で切ったりしているが、昔は、必ずその時間内、つまり60秒、30秒、etc 内で完結する様に作っていた。
 で、テレビの場合は、60秒、30秒がメインで、長いもので90秒、120秒、短いと15秒、極端に短いのは5秒、と云うタイプが有る時期も、あった。
 それで、テレビの場合は、前の番組や別のCMとの間に必ず音の出ない空白を設ける事になっていて、実際の音楽のサイズは、それぞれから1.5秒を差し引いたもの、つまり、28.5秒とか、58.5秒、と云う風になっていた、現在でも、多分そうだと思う。
 これに対して、ラジオの方は、何故か、20秒、40秒、60秒と、20秒の倍数が多く、この場合は、正味20秒、40秒となっていた。 だから、同じ60秒のCMでも、ラジオとテレビでは時間が違っていたのだ。 その場合の正味60秒、40秒などの方を、ラジオサイズと云っていた。

→ 放送劇

 ラテン系と呼ばれる音楽、つまり中南米系の音楽に使われる打楽器の事だ。
 代表的なのは、ボンゴ、コンガ、ティンバレス、マラカス、クラベス、ギロ、カバサなどだろうか。
 でも、最近スタジオに出入りしているラテン・パーカッションの奏者は、本来のラテン音楽をやる事はまれで、小物の楽器を大量に持ち込んで、リズムに色を添えている、と云う様なケースが多い様に思われる。

 テレビの録画をする場合などに、リハーサル、カメラリハーサル、本番の録画、と云う様な手順を踏むが、カメリハ(カメラリハーサル)の後に、本番と同じ様に通しでやってみる事をランスルーと云う様だ。 カメリハの場合は、駄目が出ると途中で止めてやり直す事があるが、ランスルーは原則として止めない。

 コンピュータやシーケンサーに音のパターン(音程、発音位置、発音時間)を入力する方式の一つで、キーボードなどで弾いたものがそのまま入力される方式。
 読みとりの精度は調整するように成っている。 読みとり精度は高ければ良いと云う事ではなくて、精度が高すぎると、ちょっとした狂いが音符として読みとられて、妙に複雑な楽譜に成って出てきてびっくりする事がある。
 リアルタイム入力には限界が有って、例えば装飾音符のつもりで弾いても、細かい普通の音符として読みとられてしまうので、楽譜として出力する場合は、手動で修正する必要がある。

 特にスタジオ用語と云う訳ではない。 リコーダーは、学校で授業に使っている縦笛と基本的には同じ楽器で、ソプラノ・アルト・テナー・バスの4種類がある。 この4種類の楽器に関しては、国産品のプラスティック製の楽器があって、安価なわりには、結構使える。
 ソプラノリコーダーの4度上…つまり、アルトリコーダーの1オクターブ上になる楽器に「ソプラニーノ」と云うものもある。 これは「小さなソプラノ」と云う意味で、ちょっと大きな楽器屋さんに行くと、これもプラスティック製の楽器を簡単に買うことが出来る。 ちなみに、バスリコーダーより4度低い楽器に「グレートベース」、さらに5度低い「コントラバスリコーダー」と云われる楽器もある。
 全く同じ言葉なのに、日本ではレコーダーと云うと録音機器を指し、リコーダーだと楽器を指す、と云うのも、面白い。
→ リコーダー

 リズムセクション、とも云う。 「隊」と云うのが日本的で面白いが、普通はドラム、ベース、ギター、ピアノをまとめて、リズムセクション、リズム隊、フォーリズム、等と云う。 元は、ジャズバンドから来た言葉だと思われる。
 このリズム隊は、音楽のリズムとコードの部分を受け持っているので、バロック音楽の通奏低音と共通する様な部分が有る、と云えなくもないだろう。 もちろん、この4パートだけでも、立派に演奏が出来る。 4パートと決まっている訳ではなくて、3人の事も、5人の事もある。

 リズム隊の録音の事で、同時録音をしないで、先にリズム隊を録る、と云う事は、よく行われる。
 その後に続くのが、「弦ダビ」だったり「歌入れ」だったりするわけだ。

 タンゴ、ボサノバ、ボレロ、と云う様な、ダンスのリズムを指す事も有るし、もっと特定のリズムの形を指す事もあるだろう。

 テレビ番組などを見ていると、時々、3、2、1、と云う風な数字が出ることがある、あれは、なにかの手違いで、本来画面に出てはいけない部分が出てしまった結果なのだが、実はあれがリーダーなのだ。 フィルム(今はビデオだが)は、いきなり番組が始まるのではなくて、ある程度のなにも写っていない部分があって、それから、その3、2、1と番号が出て、その後が、本篇になるのだ。 本篇のフィルムを保護する意味と、映写する時の目印だったのでは、と思う。 ダビングする時なども、このリーダーが役に立つ。

 メロディーにコードネームをつけただけの、1段の楽譜をリードシートと云う。
 訓練を受けたジャズやポップス系のミュージシャンは、このリードシートだけでも、演奏する事が出来る。

 リハーサル(練習)の略だ。 リハーサルは練習と訳す事が多いが、どちらかと云えばメンバーが集まってやる合奏練習の事で、一人で練習するのはリハーサルとは云わない。
 テレビ局では「カメリハ」と云うのが有って、これは演奏、演技よりも、どちらかと云えば、カメラワークのためのリハーサルで、「カメリ」とも云う。

 エコー、と云うか、ホールの残響のようなものを人工的に付ける事、もしくはその装置をさしている。
 昔はエコールームを使って、アコースティックな残響を利用していたのだが、徐々に、電気的な処理で、リバーブを付けるようになった。
 reverb と云う単語は手元の英語辞書には載っていない。 reverberation の略だと思われるが、オーディオの世界だけで使われる略語だろうか。
→ エコールーム

 録音するのがレコーディングなのだが、スタジオ業界では、劇伴やCMなどと区別して、歌モノ、もしくはインスト等の録音を特に「レコーディング」と云って区別する事が有る。 今ではCDだが、昔はLP、あるいはSP、EPなどのレコード盤として製品に成る録音を、そう云う風に云ったのだと思う。

 特にスタジオ用語、と云うわけではない。 少し長めの曲になると、リハーサルをする場合など、途中から始めたい時に、最初から65小節目、などと云っていたのでは、効率が悪いので、普通は16小節くらいづつ区切って、「1」「2」「3」とか「A」「B」「C」等と標識が付けてあって、アルファベットでも番号、と云うのは妙なものだが、普通それを練習番号と云っている。
 練習番号があると、指揮者が指示を出す場合でも、ミュージシャンが質問をする場合でも、あるいは、差し替えをする時なども、Aの二つ前、とかBの3小節目、とか云う風に云えるので、便利なのだ。
 それとは別に、小節毎に番号が振ってある場合もあって、これは文字通り「小節番号」と云っている。
→ 小節番号

 連続ドラマの事だ。
 一回だけで終わる単発のドラマに対して云われているのだが、普通は、ある曜日に毎週放映されるようなドラマの事を指す。
 毎日、同じ時間帯に放映されるものは、帯ドラマと云われる事が多い。

 スタジオやステージ関係で、楽器や機材の運搬を担当する人の事で、昔は「バンドボーイ」「ボーヤ」などと云っていたが、最近はこのローディーが一般的だ。
 ドラム等、楽器が大きい、或いは楽器の種類が多いプレーヤーは、ミュージシャン志望の若者を、ローディーとして連れて居る事が多いのだが、そう云う師弟関係ではなくて、純然とした、と云うか、専門職のローディーも居る。 楽器を安全に運んで、セッティングしたり、バラしたりなど、かなり熟練を要する仕事なので、誰でも簡単に出来るものではない。
 昔は、ローディー出身のミュージシャンが結構居たのだが、最近はそう云うケースは稀になってきた様だ。

 コマーシャル関係でロゴ、と云う場合は、商品名を指す。 コマーシャルの最後には、商品のアップと商品名が出る事が多いが、あれだ。
 コマーシャルソングなどでも、最後に商品名を歌う事が多いだが、あれもロゴと云う。
 ギリシャ語のロゴス(「言葉」の意味)から来ているのだろう。

 最近はあまり使わないが、映画や劇伴関係では、「今日は5ロール録る」とか、「これOKです、次のロールに行きます」などと云う風に使っていた。 我々のサイドからは、「曲」と同じ様な感じなのだが、多分、映画の方から来た言葉だろう。
 つまり、ダビングする為に、フィルムをシーン毎に切ってリールに巻いたものを用意していたのだが、そのそれぞれの一巻きをロールと云っていたのだろう。
 それが、なんとなく映画を離れても、ロールと云う言葉だけが残って、古い人などは、いまでも「今日はロール数が多いから、大変だよ〜」などと云う事が有るようだ。

 特にスタジオ用語、と云うわけではない。
 文字通り、和楽器なのだが、尺八、三味線、琴、鼓、などを総称して、和楽器と云っている。 最近は全くそう云う事はないのだが、昔は、和楽器の人となると、楽譜に弱い人が多かったので、「今日は和楽器が入るから、時間がかかるよ〜」などと、よく云っていた。
 和大鼓、鼓、大川、チャンチキなどの類も、打楽器とは云わずに、和楽器として、別扱いする事が多い。

 テレビドラマなど、3ヶ月単位で番組が入れ替わる事が多いが、その3か月の周期の事をワンクールと云うようだ。
 クール、と云うのがよく分からないので、ネットで見たら、cours のようで、英語には該当する単語は無く、どうもフランス語の様だ。 多分、経過、過程、と云うような意味なのだろう。 クールがフランス語なら、ワンクール、と云うのはおかしいのだが、こう云う事は業界ではよくある事なので、気にしないことだ。

 コーラスと云えば普通は合唱の事だが、それ以外に、ジャズやポップス関係では、歌の一番、二番などの「番」の意味で使う事が有る。
 たとえば16小節の歌があったとすると、その一番をワンコーラス目、2番をツーコーラス目・・・と云って、そのそれぞれの16小節をワンコーラスと云う。
 ツーコーラスやってサビに戻るパターン、つまりツーコーラス半のやり方を、ツーハーフ等と、よく云う。
 普通の歌は、3コーラスくらいの長さが多いが、盆踊り等に使う「**音頭」などは、6コーラスとか、多い場合は10コーラスくらい有るのもあって、譜面の行き方が複雑に成って、苦労する事がある。
 話に聞いただけで、私が参加してるわけではないのだが、いままで聞いた中で、一番長かったのは、鉄道唱歌の36コーラスだろうか。
 不思議なのは、この使い方では必ず前に数字が付く事で、単独で「コーラス」と云うのを聞いたことが無い。

 編成の大小にかかわらず、一本のマイクだけで録る事で、最近はほとんどやってないと思われる。
 初期の頃の録音は、ほとんどがこのワンポイントでとっていたので、そう云う言葉も無かったのだ。
 そのころのミキサーさんのワザとしては、楽器を如何に配置するか、と云う事だったようで、要するに、音の小さな楽器をマイクの近くに、大きな楽器は遠くに、と云う風に、マイクからの距離でバランスをとるのだが、その塩梅が、中々微妙なものだった様だ。
 いまでも、コンサート会場の録音などでは、オーケストラの指揮者の真上あたりに天井から吊したマイクを見かける事があるが、あれなどは、マサにワンポイント録音と云えるだろう。
 下手にマイクを一杯立てたのより、ワンポイントマイクで録ったものの方がずっと良かったり、と云うケースも、よく有る。 いくらマイクを沢山立てても、バランスのとり方が悪かったら、なんにもならない、と云う事だ。
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