楽器と気温

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 どんな機械や道具も、極端な高温や低音では作動しなかったり、動作が狂ったりするものだ。
 楽器の場合も気温や湿度に関しては、かなり大きな影響を受ける。
 楽器、特に管楽器は寒がりで暑がりなのだ(プレーヤーも?)。
 寒いところでは、指が冷えて思うように動かなく成ってしまうと云う事もあるが、それよりも管楽器奏者にとってはピッチの問題のほうが深刻だ。
氷点下のパレード
 以前、たしか2月だったと思うが、軽井沢の氷祭りと云うのを見に行った事がある。
 多分、昼間でも氷点下10度c前後の気温だったのではないかと思うが、その極寒の状況で、なんとブラスバンドのパレードに出会った。
 どの地域のバンドだったかは覚えていないが、たしか自衛隊のブラスバンドだったと思う。
 金管楽器など、マウスピースに唇を当てるだけでも大変ではないか、と思われるのだが、とのかくちゃんと演奏しながら行進して来たので、びっくりしたものだった。
 手袋をはめるなどはしていたが、ピッチは多分かなり下がっていたと思われる。 それでも、特に音程に問題が有ると云う事は無かったようだ。
 弦楽器の場合は、まだ調弦で対応出来るのだが、管楽器の場合は、若干はピッチの微調整が出来るとは云え、正常に演奏できる範囲は、かなり狭いと思われる。
 管楽器に限らずだが、楽器の演奏に適した気温は、約24度、と聞いた事があるが、凡そのところは、その近辺ではないかと思われる、要するに、普通快適に生活できる気温、と云えるだろう。 何度、と数字ではっきり決めるのは、難しいかも知れないが、例えば、上着を着た状態で暑く感じない、上着を脱いだ状態でも、寒くない程度、と云うのが分かり易いのではないだろうか。

 寒いところでも、音が出ない訳ではないが、楽器の歌口に近い部分と、遠い部分で、温度差が出来てしまい、音によってピッチが変わってくる。 木管楽器だと、温度差がなるべく出ない様に、歌口の反対の方からも息を吹き込んだりする事で、多少はましに成るのだが、吹いていても端の方から冷えてくる様な場所では、それもあまり効果がない。 金管楽器だと、この反対側から吹き込み、と云うワザは使えないだろう。

 ある程度は、管の抜き差しや吹き方でピッチのコントロールは出来るのだが、それにも限度があり、やはり20度以下に成ると、難しく成ってくる。
 フルートの場合は頭部管を2、3ミリ抜いた状態がベストなのだが、これを抜いたり差したりして調整する。
 クラリネットも同様だが、クラリネットの場合は、マウスピースと本管(?)の間に「樽」と呼ばれる部分があって、これを取り替えたりもする様だ。
 オーボエやファゴットの場合は、リードの抜き差しで調整する。 クラリネット、オーボエ、ファゴットの場合は、途中の継ぎ目も、抜き差しが出来るので、そこで微調性をするケースもあるかも知れない。
 いずれにしても管を抜き差しすると云う事は、ギターのフレットをそのままにして弦の長さを変えるようなものだから、当然バランスが狂ってくるわけで、限度が有る。
 金管楽器の場合は、管の途中に、調整用のスライドが付いている。 トランペットやホルンの様にピストンやバルブが付いている楽器では、ピストン毎にスライドが有るので、比較的バランス良く調整出来るのかも知れない。

エアコンの問題
 長くミュージシャンをやっていると、たまにはとんでもないところで演奏させられる事も有る。
 中学や高校の頃は、野球の応援で真夏の野球場で演奏した事がある。
 プロに成ってからでも、多分、式典かなにかだったと思うが、真冬になんとタンカーの甲板(?)で演奏した事もあった。 比較的最近でも、いわゆる「音楽教室」で、都内の学校を訪れた時も冬で、体育館のようなところだったが、これが全く暖房が入っていなくて、おまけにたまたま寒い日だった事もあって、多分1、2度しか無かったと思う。  そんな極端なケースではなくても、一流とされている大きなスタジオでも、ブースによっては寒すぎたり暑すぎたりと云う事は、現在でも結構ある。
 多分、ダクトの設計が間違っているか、設計通りに働いていないかだろうが、スタジオの各ブースのエアコンが全てうまく稼働しているケースは少ないようだ。
 各ブース毎に調整出来るように成っていて、それがちゃんと作動していれば良いのだが、トータルでしか調整出来ないと、設定温度を上げると暑すぎるところがでて、逆に下げると寒すぎるブースがでたりして、結局は誰かが我慢を強いられる事に成る。
 また、冷えた状態で吹いていると、内部に水滴が溜まって、少しくらいなら大丈夫なのだが、オーボエなど、管の内径と指孔の小さい楽器では、水滴で詰まってしまう事もある。 ピッコロなども、長く吹いていると、よく水が溜まるし、フルートの様な、穴の大きな楽器でも、塞がってしまう場合が有る。
 穴が塞がるまでは行かなくても、タンポ(穴に直接接触する少し柔らかい部分)に水滴が付いたりすると、狂いの原因にもなるので、やはり要注意だ。
 ずっと吹き続けていれば、楽器の温度も維持出来るのだが、休みが長かったりすると、次に吹く時は、少し前から息を通して、楽器を暖めておく必要がある。 スタジオの様に、急に持ち替えて吹く事が多いと、かなり状況は厳しくなってくる。
 逆に暑すぎると、管を抜くしか対応のしようがなく、これも、抜きすぎると、音程のバランスが狂ってしまうので、限度がある。30度くらいになると、かなり無理が出てくるだろう。
 こう考えてくると、管楽器に適した気温は、仮に24度が適温とすると、その上下、せいぜい4、5度くらいの範囲ではないかと云う事になる。
 ただ、こう云う事を云っているのは、贅沢だ、と云われるケースもあるのかも知れない。
 野外で演奏するブラスバンドなんかは、炎熱の競技場や、零度を切る様な、冬の野外でも演奏する場合がある。 ピッチの面など、ある程度目をつぶる事は、致し方ないとは思うが、そんな悪条件でも、かなりのレベルの演奏を聴いた事もあるので、やはりそれなりの対応の仕方もあるのだろう。
 氷点下のような状況だと、金管楽器のマウスピースが、唇に凍り付いてしまう、と云う様な話も、聞いた事があるので、やはり半端な事ではないと思う。
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