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【パンは牧神】
 あまり見栄えは良くないが、これが普段使っている楽器である。材料は国産の女竹(メダケ、地方によっては篠竹とも云う)を使用。
 パンパイプの「パン」は、アンパンや食パン、クリームパン等のパンではない、フライパン、ソースパンなどの鍋の類でも勿論なくて、これはギリシャ神話に出てくる半人半獣の牧神の事で、これは英語名だ。
 パイプはこの場合は笛の意味だから、「パンの笛」と云う事になる。ドビュッシーの「牧神の午後への前奏曲」は、これからイメージを得たものらしい。 他にも、この牧神に題材を求めたフルートの曲は、何曲か有るが、その笛が元はこう云う形のものであった事を知っている人は少ない。

 日本では「パンフルート」と呼ばれる事が多い様だが、どうもこれはレコード会社が勝手につけた、和製英語の様である。
 多分、ルーマニアのパンパイプ「ナイ」の名手、ザンフィルのレコードを売り出す際に、「ナイ」では親しみにくい(売れない)だろうと思って、適当に考えて付けた名前ではないかと想像している。
 英語ではパンパイプの方が正しい。要するに、一方が塞がった、葦や竹、もしくは木の筒を十数本から数十本並べた楽器の総称である。 魔笛のパパゲーノが「ソラシドレ♪」と吹く、あの笛もパンパイプだ。

 唇が当たる部分は、怪我をしない為と、発音しやすい様に、斜めに切り込みを入れ、綺麗に面取り加工してある。 反対側も同じ様に成っている。

 有名なのは前出ルーマニアの「ナイ」と呼ばれる楽器と、南米の「シーク」「シクリ」「サンポーニャ」等と呼ばれる楽器だ。 南米の楽器は葦を紐で束ねた様な感じだが、ルーマニアの楽器も材料はアジアの竹らしいが、がっちりと固定してあるのが多い様である。
 ルーマニアの楽器は、管を一列に並べているが、南米の楽器は3列くらいに束ねているのが多い。 一見吹きにくそうなのだが、現地の奏者たちは、何の苦もなく吹きこなしている。三列に並んだ管は、三度間隔に成っているようで、その辺りから独特のフレージングが生まれるようだ。あのサンポーニャ奏者のパワーはなかなか真似が出来そうに無い。
 構造が単純な事もあって、世界各地、特に竹や葦の産地には、古くから存在していた様だ。正倉院の御物の中にも、パンパイプが発見されており、レプリカを作って実際に演奏する、と云う試みもなされているそうだ。

【音色が魅力】
 下側は、竹の節の部分を使えば、見た目にも良いのだが、私の場合はこう云う風に、エポキシで塞いでいる事も多い。 この方が材料が有効に使えるし、調律もしやすい。特にエポキシでなくても、何を使っても良い。
ばらばらにした管。こう成ると、単なる竹筒でしかない。

 この楽器の魅力も、その特徴的な音色に在る様で、一声吹いただけでも、充分に存在感が有る。 発音も容易で、特に訓練を積んだ人でなくても、簡単に音は出せる。早い話がビール瓶等を吹いて「ボーッ」と音をだすのと同じだ。ただ、その演奏は、簡単ではない。 特に跳躍を含むパターンはとても難しい。各種色々ある持ち換え楽器の内で、私が最も一番苦手とするのが、このパンパイプである。
 ルーマニアのナイや南米のシーク、サンポーニャの奏者には素晴らしいテクニックの持ち主が大勢居る。やはりこれ一筋に打ち込まないと、難しい。

 私の場合は、管を全部ばらせる様に作っていて、演奏する曲のキーに合わせて、随時組み替える様にしている。 だから、キーに関しては、どんなキーにも対応出来ると云う訳だ。
また、必要が有れば、普通のダイアトニック以外の、特殊な音階や音列を、組む事も可能である。

【初期のパンパイプ】
 ちなみにこれは一番最初に作ったパンパイプだ。
 ちょうどフォルクローレに凝っていた時期だったので、どちらかと云えば南米風にシーク、シクリと云った方がいいのかもしれない。

 管の段差を見ると普通の音階ではない事が分かると思うが、配列はBマイナーのペンタトニックに成っていて、これでグリッサンドをやると、独特の効果がでる。

 この楽器ではないが、チャゲ&アスカの「万里の河」の冒頭に出てくるのもペンタトニックに作ったパンパイプのグリッサンドだ。
 最近は管を縛るのは細めのゴム紐を使っているが、この頃は管を差し替えると云う事を考えていなかった。 この糸はほとんど弾力性の無い、アーチェリーの弦を作るためのものなので、数十年経っているにもかかわらず、全くゆるみが無い。
 後には材料を有効に使う意味もあって、エポキシは使うように成ったが、下側は竹の節をそのまま使っていた。
★ 詳しい音域、記譜法、性能、等は 「 楽器別性能、音域 」 の方を参照。
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